2009/06/05

静物画の秘密展

  • 2009年01月10日の旧エントリから転載・改編
 「静物画」を英語では「still-life」と訳す(勿論,これは言葉の綾であって,実際にはstill-lifeを日本語で「静物画」と翻訳した,というのが正しい.)ということを,先日弟から聞いた.同じ言葉を比較したとき,大抵の言葉は英語よりも日本語の方が深みがあって美しく感じるのだけれど,珍しく「静物画」に関しては英語の響きの方が耳に心地いい感じがした.

 さて,今年最初の美術展は,兵庫県立美術館で今月6日から開催されている「ウィーン美術史美術館所蔵・静物画の秘密展」だ.実は,去年の夏から東京,仙台と渡って来た美術展で,年をまたいでようやく関西に来たものだ.

 夏に本家のウィーン美術史博物館を訪れた際に,一部の展示品が「出展中」となっていたのは,ほかでもない日本に来ていたからで,実は渡独の前からそれは知っていたから,自分にとっては今回の美術展がある意味で昨夏のゲルマン紀行の閉幕,くらいに楽しみにしていたものだ.公開初日は夕方から仕事が入っていたので外し,2日目の平日を狙って行って来た.

 美術展は4部構成になっていて,
  • 第1章「市場・台所・虚栄の静物」
  • 第2章「狩猟・果実・豪華な品々・花の生物」
  • 第3章「宗教・季節・自然と生物」
  • 第4章「風俗・肖像と生物」
と題される.今回の美術展の一番の目玉作品はVelázquezの「薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」とされているが,先月の2度目のVermeerやらなんやらで人混み慣れしていたので,閑散とした会場は却って肩透かし.目玉作品も独占状態だ.
 流石に名作と呼ばれるだけあって,タッチや色遣いの強弱やコントラストが面白かったし,実はこの作品の対になっている作品をウィーンで観て来ているので,その対比も楽しかった.欲を言えばもう少し沢山観賞用の椅子があっても良かったかな.

 最後の売店にて,美術展の目録が2300円で販売されていたのだが,その横でドイツ語の白黒の目録が300円でひっそり売られていたので,迷わず独語版を買って来た.ということは,恐らくこの美術展はウィーンか或いはドイツ語圏のどこかの美術館で一度企画展として開催されていたのだろう.

 静物,と一口に言っても広い.

 第2章以降は花を中心とした静物画が主で,そうした素養のある人達にとっては美術以外の愉しみ方も出来そうな作品ばかりだったが,むしろ自分にとって発見だったのは第1章の寓意的な静物画の方だ.
 髑髏をモチーフの中心とした「虚栄(ヴァニタス)」と呼ばれる作品群や動物の死骸をモチーフにした狩猟画の,非常に生々しく,リアルで,それでいてその中に宗教的な意図や寓意が込められているあたりが写真とは違う絵画特有の魅力をプンプン漂わせていた.タッチや色遣いだってVelázquezより断然好みで,このフロアを抜けるのに1時間掛けてしまった.Jan Weenixの「死んだ野兎」がベストヒット.

 人によっては「悪趣味」とあしらってしまいそうなチョイスだが,クラシックな静物画の源流が垣間見られた気がする.しかし,美術展の「目玉」になっていないせいか,売店の絵葉書には虚栄(ヴァニタス)の作品が一枚も見当たらなかったのが残念.

 ウィーン美術史博物館で観たVermeerの「絵画芸術の寓意」も,寓意的なモチーフが込められるようになった後期の作品で,美術史博物館のコレクション達の横の糸もうっすら感じられる.

 余談だが,美術展には美術館と違った面白さがある.美術館は言わばオムニバスアルバムのようなもので,テーマや趣向といったものは後回しにされがちなのに対して,美術展で集められた作品達は大抵の場合,一定のテーマや時代,画家達の中から集められた作品群であり,その中には普段見落としがちな作品も,物語を紡ぐ一本の糸として輝きを増す.

 いわゆる美術館的な集め方もいいが,日本の美術館はもう少し日本の美術に力を入れたら,世界からも一目置かれるいい空間になるんじゃないかなと思う.その意味で,今回の展覧会が開催されていた兵庫県立美術館は,割と日本画のコレクションが豊富(特に,兵庫ゆかりの画家として金山平三と小磯良平のコレクションが良かった.)で,3時間もかけて贅沢に美術展を観たあとのいい口直しになった.

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