
公開前から楽しみにしていたイスラエルのアニメ映画.今年映画館で観る最後の映画だと思う.年末に少し余裕があったとしても,ほかならぬこの映画をもう一度観に行くに違いない.歴代の名作を観るに観続けた一年の映画たちの中でも,ベスト10には入る.「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」,「サマーウォーズ」という今年の超傑作の更に上をいく.
まず,アニメ映画といってもいわゆるジャパニメーションとは全く異質のものであることを断っておこう.この映画は,レバノン侵攻を経験した映像作家の,PTSDとフラッシュバックのドキュメンタリーを,アニメ化したものだ.何しろ,まずドキュメンタリーを撮影した後で,アニメを上乗せしたというくらいで,登場人物はもちろん,その声を充てている声優陣までノンフィクションという異色のアニメ映画である.
今年のアカデミー賞外国語映画部門にノミネートされるも,惜しくも「おくりびと」に敗れた作品としても話題になった(日本では「おくりびと」の受賞しか騒がれなかったが).日本公開は今秋で,地元では今週末から公開開始.本当なら大阪か東京でもっと早く観ても良かったのだけれど,忙しくて時間がとれず,近場での公開を待っての鑑賞となった.
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ストーリーは,イスラエル軍として侵攻にかかわった映像作家(この映画の監督・本人役)が心のうちに閉じ込めた記憶の存在にきづき,過去の仲間たちを訪ねることで真実の記憶に迫るかたちで進んでいく.
記憶とは実にあいまいで,忘却と同時に都合よく塗り替えられていくものだが,ことに戦争の記憶は無意識の闇に幽閉してしまうほどに人々の心をむしばむものらしい.それをあえて心理学的に掘り起こしていくことで見えてくる真実の記憶と,「サブラ・シャティーラ大虐殺」の惨劇が,この映画の向かう終着点だ.
歴史は勝者によってつくられる,とはいったものだが,他人から圧しつけられる歴史ではなく,主観である記憶すらも簡単にねつ造されてしまう危うさを,この映画を通じて戒めさせられる.逆にこの映画は,そうした歴史や記憶に対する痛烈な皮肉を含んでいるといっていい.
戦争の記憶に迫るプロセスを単なるインタビュー映像でまとめたら,映画としては却ってつまらないものになりかねないところを,あえてアニメ化することで強烈なインパクトとメリハリを添えて脳裏に焼きつかせている.また,確証のない記憶を再現する意味でもアニメーションという手法は効果的だ.そして,半ばフィクションに錯覚してしまいそうなラストで,虐殺の実写映像に切り替える斬新さ.ジャパニメーションならば失格のこの演出も,この映画に関しては完璧といっていいほど成功している.
脚本,演出,音楽ともに圧巻.強いていえばアニメーションの技術としては日本のそれに到底匹敵しないが,FLASHなどの古典的なフォーマットを使っているのも意図してのことだと思う.
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一方で,この映画の政治的,歴史的な意義も大きい.第二次大戦で虐殺の被害者だったユダヤ人たちの非情な虐殺劇に迫っているという意味でもそうだし,何より,この映画がほかでもないイスラエルで製作,そして公開されたという意味ははかり知れない.
歴史の勝者であるはずのイスラエルが,レバノン侵攻における虐殺劇を真実として受け入れる誠実さ.それは敗者であるドイツがナチスドイツの非を受け入れるのとはたぶん,政治的,歴史的な重みがまるで違う.そういった政治や歴史の駆け引きや戦略には正直あまり興味も無いのだけれど(人並みに勉強はしていると思うが),日本の南京大虐殺や,アメリカの原爆投下などを考える材料にもなりそうだ.
一つだけ残念なのは,こうしたイスラエル軍の非道な歴史も,あくまで軍の命令に従っただけだいう責任転嫁の念が全体的に感じられることと,レバノン軍団と虐殺された一般市民があくまで敵として描かれているだけで背景や不条理性などが見えにくくなっていることか.
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そして.
大戦やベトナム戦争の映画と違って,年代的にも題材的にも遥かにリアルな映画だが,かりそめの平和に逃げているこの国からでは何一つ苦しみを共有できないことが,偽善の自覚をよりいっそう強める.
本当の平和とは何か.