2010/03/22

Il ya long temps que je t'aime (2008)

 Kristin Scott Thomas主演のフランス映画「Il ya long temps que je t'aime(ずっとあなたを愛してる)」.京都シネマで「Caravaggio(カラヴァッジョ/天才画家の光と影」に続いてハシゴした作品.
 先日の東欧紀行の復習も兼ねて久々に「Mission Impossible」を見たせいで彼女の印象がわりと鮮明に残っていたのと,予告編がものすごく自分好みのものだったので気まぐれに観た映画だったのだが,細かいところでのりしろはあるものの,たぶん今年のベスト10には入るだろうというくらいのストライク作品となってしまった.

 物語は,自分の息子を殺した罪で服役していた中年女性が,刑期を終えてその妹の家族のところに身を寄せるところから始まる.彼女の罪に対して一概にその是非を論じることは出来ないのだが(彼女が医師であっただけに余計に),そうした複雑な背景を抱える母親の,苦悩と心境の変化を浮かび上がらせるKristin Scott Thomasの演技が抜群に上手い.ほとんど無表情といっていいほどの中に,微妙ながら誰もが気付き共感を覚えるような感情をにじませる名演.それ一つで,彼女の大ファンになってしまった.妹役のElsa Zylbersteinの演技も,「Modigliani(モディリアーニ 真実の愛)」とは全く違った深みがあってとてもいい.この二人に限らず,出演者たちすべての演技に深みがあるのだが,その中でもKristin Scott Thomasだけは圧倒的にずば抜けていると思う.

 作品そのものの主題,脚本もとてもよく,集中力は片時も削がれなかったが,更に言えば,もっと活かせたはずの素材や伏線(例えば言葉の話せなくなった祖父の存在であったり養子に迎えられた少女たちの存在であったり)がもったいないくらいに散りばめられているのが惜しい.もっとも,素材を全部使ってしまうと却ってご都合主義的な展開に陥りやすくもあり,監督がそれを敢えて嫌ったのかも知れないし,これくらい余白があった方がリアルだ.

 あとは,決定的に音楽がミスマッチだったのは残念.エレキギターとベースよりは,ややトーンを抑えたアコースティックな楽曲が中心にあった方がストーリーの世界観に合ったのではないかというのが正直なところ.

 逆にいえば,音楽さえ自分の好みに合っていたら,自分の中では殿堂入りしていたかも知れない作品.万人から称賛される映画ではないと思うのだが,物凄く自分の理想形に近いところにあった一作.提起された問題の難しさも,元夫という悪役がしっかり用意されているので感情移入もしやすいのではないかと思う.

2010/03/20

Caravaggio (2007)

 イタリアの画家Caravaggioの生涯を描いた作品.元々はイタリアのテレビ映画だったものが,映画として3年越しで日本で配給された.Caravaggioの作品は,昨年のボルゲーゼ美術館展でも記憶に新しかったのだが,ひょんなところから半年以上前にこの映画の情報を仕入れ,DVD化されるかどうかもはなはだ怪しいこのマイナー映画を時間を見つけて観に行こうと思っていたのだ.ボルゲーゼ美術館のコレクションの保持者だったBorghese卿はもちろん,Brueghelら有名画家とのやりとりも面白い.

 一部のCGをのぞけば作りこみは大いに凝っており,物語も飽きの来ない展開.ほとんど予備知識なしに見た映画だったのだが,Caravaggioという一人の画家の生涯の中に,当時の宗教画の制約や,職業画家としての苦悩がふんだんに織り込まれていて,3時間という時間を感じさせない.それは,映画監督のセンスもさることながら,単純にCaravaggioという人間の数奇な人生によるところが大きいのだろう.画家でありながら政治問題や決闘といった似つかわしくない問題に常に付きまとわれ(その多くは彼の性格や行動に起因する自業自得の問題なのだが),人間的な浅はかさや滑稽さが光る.欠点が見えてこそ愛せるというべきか,身近にいて貰ってはなかなか困る人物ではあるのだが歴史の中に組み込まれたCaravaggioの本質は実に濃厚で面白い.

 美術的な観点でも,彼の作品における寓意や時代背景がチラチラ見え隠れしていて,様々な観点から楽しめるエンターテイメント的な映画だと思う.今まで見た画家ものの映画の中では,かなり上位に入ると思う.

2010/03/18

涼宮ハルヒの消失 (2010)

 引っ越しで忙しいなか京都シネマで鑑賞.良くも悪くも前評判通りといったところか.原作を読んで知っていた自分にしてみれば,とりわけ衝撃や驚きもなくて,ひとえに京都アニメーションの丁寧な作りこみに拍手を送りたいだけ.それも,個人的にはあまりにコマ数が多いアニメーションに慣れていないので見やすいかどうかといわれたらやや首をかしげる部分も無きにしも非ず.
 キャストは流石にプロが揃っているわけだから,同じくらいのレベルのキャスティングを「サマーウォーズ」でやってくれたら,ハルヒなんか目じゃないくらいの大傑作になったのになとやっぱり思ってしまう.

 この映画で特筆すべき点があるとすれば,音楽のチョイス.昨年の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」では音楽センスで賛否両論が巻き起こったが,どちらかといえばこの映画もそれに近いものがあるように思う.エンディングの楽曲は流石に今ひとつだったけれども,全体を通じてBGMが適材適所に活きていてとても良かったと思う.

2010/03/14

Gemäldegalerie Alte Meister

  • Gemäldegalerie Alte Meister(ドレスデン国立美術館)
  • Dresden / Deutsch
 行程的にかなり遠回りをしてまでドレスデンに寄った理由はただ一つ.ゲルマン圏で唯一見逃しているVermeerの作品2点がこのドレスデンの国立美術館“アルテ・マイスター”にあるからだ.そういう事情なので,かなり限られた時間しかドレスデンに滞在出来なかったのはいたしかたないのだが,流石に1時間半でアルテ・マイスターをまわるというのは無理があった.そもそも,Vermeerの「窓辺で手紙を読む女」を脳裏に焼き付けるだけでも2時間くらいは観ていたいくらいなのだから.それでも,泣く泣く30分でVermeerを切り上げて残りの時間でRaffaelloやGiorgioneの名画を観る時間も作れたのでギリギリ合格か.

 さて,問題のVermeer.もはやVermeerの絵自体は何冊も本や画集を読んで知り尽くしているので,どういった絵がどこにあるのかは当然全て知っている.それでも実物を観たい,という気持ちは美術に疎い人にはなかなか理解されないらしい(そういう質問を割と多くされる)が,例えるなら,音楽の好きな人がCDで曲を聴けるにもかかわらずライブやコンサートに行くのと同じ感覚といえば分かりやすいだろうか.

 絵画は「2次元」といわれるが,実際には3次元,時に4次元である.本やweb上の写真として観る限りでは単なる画像でしかないのだが,実物の絵画にはその質感,タッチ,濃淡,絵具の重ね具合などが加わって全く違うシロモノになる.況して,年代が古ければ絵具がひび割れていたりところどころ禿げていたり,時間的な劣化まで加わってくる.
 また,写真や画像で一番当てにならないのがその色彩で,何か有名な絵を一つ検索にかけてみればわかるが,濃淡や色彩が画像によってまるで異なっているのが分かる.そういうわけで,基本的に画像の色彩は信頼しないことにしている.

 さて,とはいえ作品そのものは事前に分かっているわけで,ドレスデンにあるVermeerの「窓辺で手紙を読む女」にはそこそこ期待をしていた.数年前に来日していた絵だが,当時はVermeerに興味すら持っていなかったので企画展も素通りだったわけだ.ドレスデンには実はVermeerが2枚あって,2枚目の「取り持ち女」ももちろん観てきたが,こちらは元々あまり期待もしていなかったし,その意味で概ね予想通りだったので,3分くらい見つめあって直ぐに隣の「窓辺で手紙を読む女」の方に目を戻してしまった.

 結果はというと,期待通りの名作.心配していたほど劣化もなく,Vermeerの初期の作品の中では断トツで異彩を放っている傑作だと思う.女性と光をモチーフにした作品は,Vermeer中期に多く,そのどれもが抜群の傑作といっていいのだが,それらに引けを取らない魅力がある.
 この絵で面白いのは,上側に不自然に空いた空間だ.少女をモチーフにしているなら普通に観ればお世辞にもいい構図とは言えないが,元々この絵の右上には天使が描かれていたものを最終的に暗示を嫌ったVermeerが排除したようだ.それでも,この空間のお陰で,自分が常々Vermeerの最大の魅力だと思っている「光」が2割増しくらいになって絵に生きているように見えるのが却ってとてもいい.上半分の空間の微妙な光の濃淡が,「光と影」という点でこの絵をVermeerの最高傑作に仕立てているように思う.

2010/03/13

Leopold Museum

  • Leopold Museum(レオポルト・ミュージアム)
  • Wien / Austria
 世界最多のEgon Schieleコレクションを誇るレオポルト・ミュージアムは,Museums Quartierと呼ばれるウィーンの美術館群施設の一角にある.前回も冷やかし程度には観ている美術館ではあるが,今回のウィーン来訪ではEgon Schieleを目玉においていたので,この美術館でじっくり時間をかけるつもりでいた.
 「鬼灯の実のある自画像」はじめ,Egon Schieleの著名な作品群はほとんど全てこの美術館に集結していると言っていい.この「鬼灯の実のある自画像」は一昨年にも観ているのだが,素通り程度に観た作品なので,今度はそのタッチや色遣いを,鮮明に脳裏に焼き付けて帰るつもりでいた.

 ところが,現実は非情なもので,レオポルト・ミュージアムの常設展示されているSchieleの作品群は,半分ほどしか観られなかったのだ.というのも,自分が訪れた翌々週から同じ美術館でSchieleの特別展が予定されていて,その企画展の準備で持ち出されてしまっていたためだ.外に搬出されているならまだしも,いまいる美術館の中にあってなお“準備中”であるがゆえに観られない悲劇!

 係員の人数人と交渉(この旅で一番ドイツ語力を発揮した)して,準備の終わっているフロアだけ特別に見せて貰えた.残念ながら「鬼灯の実のある自画像」を含むSchieleの名画のうち数枚は観られなかったが,代わりに普段はなかなか観られないSchieleのデッサン画を100枚近く観ることが出来た.日本ではなかなかこうもいかない.Schieleのセンスはずば抜けている.不安定さすら感じさせる線がつくりあげる圧倒的な存在感.モチーフ,構図,色遣い,そのすべてが独創的で革命的.正直,Klimtの比じゃないと思った.

 もちろん,特別展に借り出されていないSchieleの作品群はすべて観ることが出来たので,それらはじっくりじっくり時間をかけて観てきた.ほかの美術館を見て回る時間を考えたら,これくらいの量でちょうど良かったかもしれない.Schiele以外にも,KlimtやKokoschkaなど見どころは多い.特にKlimtに関しては,いわゆるKlimtの作風からは想像できないとある少女の肖像画がとてつもないインパクトを感じさせた.非常に写実的で,やわらかく,温かい一枚.こういう絵を描ける人がなお,Beethoven Friezeのような奇抜な作品を残したところに,Klimtの真価が見てとれるように思う.PicassoにしてもModiglianiにしても,初期の一般的な作品群があるからこそ光る個性があるのだ.

 ともあれ,期待していた作品をすべて観られなかった代わりに,普段はお目にかかれないデッサン画を沢山見られたので差し引きプラスといったところ.最後にミュージアムショップでSchieleの小さな画集を買って帰ってきた.

2010/03/12

The Third Man (1949)

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 戦後ウィーンを舞台にした映画「第三の男」.テーマ曲はヱビスビールのCM曲としてお馴染みだ.ウィーンにはこの映画の博物館まであるくらいだし,「Before Sunrise」の中で登場するプラーター公園の観覧車も,もともとはこの映画で有名になったものだと聞き,前々から観たいと思っていたのだけれども,通っていたレンタルショップではいつも貸し出し中で,そうこうしているうちに論文の準備で余裕がなくなってしまったので,結局観ることが出来たのは帰国してからのことだった.

 当時のウィーンの実情を汲みつつ,なかなかスリリングなサスペンス映画に仕上がっていて面白かったと思う.特に,ハリー・ライムを罠にはめる際の大きな人影や,地下水路でのギリギリな逃亡劇などは,60年以上前の映画とはとても思えない演出力が感じられる.

 ただ,どうしてもうちょっと社会的なバックグラウンドを用意しなかったのかが疑問だ.というのも,主人公から語られる見どころのありそうな犯人像からは,人の命を犠牲にしてまで闇売買を続ける犯人の動機があまりに安直に見えてしまうのだ.
 ルネッサンスやスイスの歴史を例に挙げてまで主人公を納得させるシーンはとても秀逸だが,それに見合うだけの犯行の動機や社会性があったとはとても思えない.ストーリーとしては面白いけれども,戦後のウィーンという特殊な社会環境にあって,その素材をまるで生かし切れていない(強いていえば英語が不自然なく使われていることくらい)というのはあまりにも勿体なく感じられた.

2010/03/11

Klimt (2006)

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 世紀末ウィーンの芸術家Klimtを描いた作品.映画は死に瀕したKlimtの回想的な夢物語として描かれる.……が.まったくもって不可解.ほぼ完全に夢物語で描かれているので,正直,監督の自己満足にしか見えない.

 現実と空想の区別もおぼろで,Klimt芸術の概念の外枠だけがぼんやりと浮かんでくるだけなのだが,その外枠も,世紀末ウィーンの本質を如実に描写できているのかはなはだ怪しい.Klimt自身,従来の芸術に打ち勝とうとする強い芸術家というよりは,芸術を隠れ蓑にして女遊びを楽しんでいるように見えなくもない.多くのモデルと愛人関係にあったのは事実のようだが,それがKlimtの芸術の原動力だとするのは少し違うようにも思う(エロティックな絵画以外の作品や寓意画から察するに).

 とはいえ,やっぱりKlimtは何というか,自分好みの画家ではないなと思う.自分は断然Egon Schieleだ,というのは先日ウィーンで確信したこと.というより,KlimtとSchieleを同じカテゴリで語ること自体に無理があるんじゃないかとさえ思う(実際Schieleは分離派には属していない).
 この映画でSchieleも登場するのだが,Schieleの役者チョイスや描き方がなんだかんだで一番不愉快だったかも知れない.

2010/03/10

Mission:Impossible (1996)

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 もうずいぶん前に観たのでスッカリ勘違いをしていた.舞台がベオグラードだと思っていて,ベオグラードの復習用に観たはずなのに,ふたを開けてみたら舞台はプラハ.どうしてこんな勘違いをしていたんだろう.しかし,プラハのどのあたりで撮影をしたかもちゃっかり分かってしまったのは微妙に嬉しい.

 いま見ても面白いスパイアクション.ストーリーは複雑すぎず簡単すぎず,ほどよい水準.アクションシーンには派手さはないが過剰演出もない.ルパン三世よろしく,お決まりのフェイスマスクも違和感が無いし,登場するアイテムも技術屋の好奇心をくすぐるような小物ばかり.
 演出も,内心と行動を並行させる真犯人が分かってからの展開が,基本的ながらなかなか秀逸だと思う.続編も含めて,アクション映画の中ではかなり好きな部類に入る作品だと思うけれども,舞台のプラハに思い入れが増して少しだけポイントがアップしたかも知れない.どちらにしても,シリーズの中では一番面白いと思う.

 強いて言えば,CIAの防壁はじめ情報系のシステムをもうちょっとコアに描いてくれたら個人的にはウキウキするのだが,その辺りは続編に行くほど深みが増しているようにも思うのでちょうどいいか.あとはTom Cruiseが主役をやっているせいもあってか,なかなか泥臭い展開にはならないので,泥臭さや人間臭さ,そして事件の深みなんかをあわせても「Die Hard」シリーズの方がまだ2枚か3枚くらい上手かなとも思う.

2010/03/09

Kunsthistorisches Museum

  • Kunsthistorisches Museum(ウィーン美術史博物館)
  • Wien / Austria
 欧州最大級のコレクションを誇るウィーン美術史博物館.Vermeerの特別展が無くても,ウィーンを訪れたら必ず訪れなければいけない場所の一つだ(個人的には王宮より美術史博物館の方が格上).一昨年に改修中で閉鎖されていた造形アカデミーが,今なお閉鎖中(今春からリニューアル・オープン)だったので,その分の時間を美術史博物館の散策に費やす.

 一昨年訪れたときに日本に出展中だった作品たちは,神戸の「静物画の秘密展」で翌年のあたまに観ることが出来たし,いま現在日本に出展中の作品たちは,京都の「THE ハプスブルク」で観ているので,美術史博物館の展示作品群はおおむね,2周していると言っていい.
 前回はほとんどVermeerの前で1時間以上立ちつくしていてほかの作品たちは流し見気味だったのだが,今回はかなりフェアに観られたと思う.

 それでもひと際目を引いたのは,「静物画の秘密展」で観た“虚栄(ヴァニタス)”の作品群だろうか.所蔵されている作品たちはどれも有名な作品たちばかりなので一昨年の記憶も割と鮮明に残っていて,Brueghel親子の作品などは当時とはだいぶ違った印象で観られたのも面白かった.Raffaelloの「草原の聖母」なども有名だが,Raffaelloならむしろドレスデンの「システィーナの聖母」の方が迫力があっていい.

2010/03/08

Vermeer. Die Malkunst.

 とりあえずウィーン入りしてこの美術展のポスターを見つけたときの興奮ぶりは尋常ではなかった.
 実はウィーンの少し前に訪れていたハンガリーのブダペストで,da Vinciの「白貂を抱く貴婦人」がほんの1週間前まで来ていたことを知り,物凄く悔しい思いをしたばかりだった.「白貂を抱く貴婦人」は今まで自分の観た絵画の中でVermeerも抜いて断トツの一枚.この後訪れるクラクフのチャルトリスキ美術館に収蔵されているのだが,チャルトリスキは冬期休業なので,残念ながらこの旅で再会することは出来ないと思っていたものだ.
 ウィーンでのVermeer展は,その無念を晴らす絶好の機会.あわよくば,まだ観ていない作品が一枚でもウィーンに来ていたらと期待を膨らませるのだった.

 ところが,世の中それ程上手いわけにはいかず,この美術展はもともと美術史博物館に所蔵されているVermeerの「絵画芸術」一枚を徹底的に分析するというもの.「絵画芸術」は一昨年既に観ているので,初見のVermeerは結局ドレスデンまでおあずけとなったわけだ.

 ただ,この企画展そのものはとても面白いものだった.日本ではこういう類の美術展を観た記憶が無い.たった一枚の絵を,幾何学的・建築学的に研究し,Vermeerがどのような手法でこの絵を描いていたかを検証する.焦点の位置と幾何的整合性から,レプリカの部屋の中にVermeerの視点とモデルの位置まで忠実に再現するこだわりっぷり.辛うじてドイツ語も図面も読める自分には,新鮮な面白さがあった.

2010/03/07

Secessionsgebäude

  • Secessionsgebäude(分離派会館)
  • Wien / Austria
 ウィーン分離派会館は,Klimtに代表されるウィーン分離派の展示施設で,Klimtの「Beethoven Frieze」が所蔵されている.「Beethoven Frieze」は,縦215cm,横3414cmにも及ぶ巨大絵画で,Beethovenの「第9」を題材に人類の哲学を描いた作品とされている.

 その迫力は圧巻で,自分が観た限りで,性的なモチーフを描いたKlimtの絵の中では最も冷静で神秘的な絵だと思う.ただ,単純にBeethovenの第9に表現される人類の哲学を描いただけではなく,当時のKlimt自身の立場的,政治的なしがらみへの当て付けのようなものまでこの絵の中に盛り込まれている気がして,哲学的な真理を描いた絵とまでは思えない.

 加えて,この分離派会館のコレクションは,その展示環境がお世辞にもいいとは言えない.わかりやすく言えば,明かりを落としたラブホテルの小部屋が道なりに並んでいて,その中に飾り程度にKlimtはじめ分離派の作品たちが息をひそめているのだ.エロティックなベッドと意味ありげに置かれたティッシュその他,極めつけにはレズビアン達の無修正のセックス映像を淡々と放映する部屋まである.

 Klimtが性的なモチーフを好んだのは,ポルノグラフィーとしての絵画を描きたかったからではなくて,人類の生命の連鎖であるとか,愛であるとか,そういうものを描きたかったからだと思っている(Klimtの絵からはその辺りの決意があまり感じられない気もするのだが).
 それが,今やこの分離派会館の展示を観るに,世紀末ウィーンのエロティックなモチーフだけが独り歩きして,アメリカ的なフリーセックスの象徴みたいに扱われているのがやや不愉快.美術館としては面白いけれども,世紀末ウィーンはウィーン美術界の革命にはなり得ず,Klimtの時代で実質的に幕を閉じた過去の歴史でしかないのだなと思い知らされた気がした.

2010/03/06

Österreichische Galerie Belvedere

  • Österreichische Galerie Belvedere(オーストリア・ギャラリー)
  • Wien / Austria
 オーストリアはウィーンのベルヴェデーレ宮殿上宮にあるオーストリア・ギャラリー(19世紀・20世紀美術館).一昨年ウィーンに滞在していたときにも行っている美術館ではあるが,このときはKlimtやSchieleについてあまり予備知識もなく,時間の関係でほとんど流し見しただけだったので,今回はじっくり時間をかけて散策.

 Klimtの作品も(一番有名な「接吻」ではなく特に「ユディットⅠ」の方が)良かったのだが,やっぱり衝撃的だったのはEgon Schieleの作品群.構図,彩色,モチーフ.どれをとっても斬新過ぎる.現代アートの先駆けでもありながら,自由奔放ではなくあくまで正攻法.しかし,彼の絵の持つ迫力と主張は,小説を読むように伝わってくるのだ.

 KlimtとSchieleに代表されるウィーンの芸術派は,「世紀末ウィーン」として知られる.その特徴の一つには,男性器と女性器を露骨にモチーフとして描く,というのがある.これは芸術界における自由への挑戦でもあったはずなのだけれど,それまで絵画を通じて見えていなかったものを見せた結果,最早,性器が生(≠性)の象徴として存在感を見せ始める.
 Klimtの絵がヌードをエロティックに描いているのに対して,Schieleの絵はヌードでもまるでエロティックさを感じさせない.ここがSchieleの圧倒的な魅力だと思う.エロスを感じさせない性は何か,それは生だ.人間の紡がれた生命の連鎖すら感じさせるSchieleの圧倒的な迫力に魅せられる.

 昨年,世界的に大ヒットした『ブラックスワン』.未知の事象の予測は出来ないが,一度知られてしまえばなんでもない普遍的な事象の一つになってしまう.Schieleの作品群には,「世紀末ウィーン」という革命をただの現代アートの一つになり下がらせない圧倒的な生命力があった.

2010/03/05

中東欧紀行レビュー

 中東欧紀行から無事帰って来ました.10ヶ国,15の世界遺産をめぐる旅です.アウシュビッツに行きたいとの思いつきから始まり,発案から4日後にセッティングを済ませた旅.修論明け翌日 から出国というスケジュールは過酷過ぎましたが(関空の時点で4日間で6時間しか寝てなかった状態),かねてから一番訪れたかった中東欧諸国をまわれて満 足の旅となりました.グループ散策ならではのメリット&デメリットもあり,初のグループ海外を満喫して来ました.

 おおまかな旅の行程は以下の通りです.

  • イスタンブール(トルコ)/★★★★★
  • ベオグラード(セルビア)/★★★★
  • サラエヴォ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)/★★★★★
  • モスタル(ボスニア・ヘルツェゴビナ)/★★★★
  • ドゥブロブニク(クロアチア)/★★★★★
  • スプリット(クロアチア)/★★
  • トロギール(クロアチア)/★★★
  • ザグレブ(クロアチア)/★★★★★
  • ブダペスト(ハンガリー)/★★★★★
  • ブラチスラヴァ(スロヴァキア)/★★★★
  • ウィーン(オーストリア)【2回目】/★★★★★
  • チェスケー・ブディェヨヴィッツェ(チェコ)/★★★
  • チェスキー・クルムロフ(チェコ)/★★★★
  • プラハ(チェコ)/★★★★★
  • ドレスデン(ドイツ)/★★★★
  • クラクフ(ポーランド)/★★★★★
  • オシフィエンチム(ポーランド)/★★★★
  • ワルシャワ(ポーランド)/★★★
  • ケルン(ドイツ)【2回目】/★★
  • ボン(ドイツ)【2回目】/★★
  • リューデスハイム(ドイツ)/★★★★★
 ベストシティはプラハ(チェコ).次いでブダペスト(ハンガリー)とドゥブロブニク(クロアチア).また,意外に発見があったのはウィーンで,2度目の来訪でウィーンへの愛着が倍増した感じです.悲しい話ではありますが,今回の旅で,京都が自分の好きな街ランキング五本の指から完全に外れてしまったのはある意味で収穫.

 ほとんど寝ずに歩きに歩いたこの旅程をここでまとめる時間があるかどうか分からないので,とりあえず芸術関係のレビューを気ままにして行こうと思っています.旅行メンバーが美術派ではなかったので,単独行動したウィーン以外ではほとんど美術館をまわっていませんが,ほかにも博物館,オーケストラ(ウィーン),オペラ(プラハ)など,アート関連でのトピックも満載です.

 ウィーンは一昨年,4日間滞在しているということもあり,観光としての見どころはほとんど観ていたので,映画「Before Sunrise」のロケ地巡りと並行して美術館を8つ(小さいものも含む)ハシゴするという贅沢な一日にデザインしました.

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