2010/04/29

ボストン美術館展―西洋絵画の巨匠たち

 自宅から散歩しがてら,六本木ヒルズで開催されているボストン美術館展へ.ボストン美術館の改修工事を好機に,有名画家たちの作品群が一挙に来日している.所用や飲み会で仕事帰りに行けなかったので,GW初日にじっくり時間をかけて楽しんで来た.

 語り草だが,「美術館展」の類の美術展にはあまり期待をしていない.テーマ性が弱いうえに,どうせなら現地におもむいた方がいいに決まっているからだ.それでも,日本で名画に出逢える貴重なチャンスなので,ことある度に出掛けてはいる.
 さて,今回のボストン美術館展,最近見たこの手の美術展の中では一番良かった.というのも,絵画一つ一つがどれも自分好みのいい絵だったからだ.RembrandtにGogh,RenoirやMonet,Manet,Degas,更にはバルビゾン派のMillet,Corotなどなど,画家の名前だけ並べてもスゴいが,名前の偏見を抜きにして,単純に魅力的な絵が多かった(強いていえばManetだけは三菱に来日している作品群の方が断然好きだというくらい).

 その中でも,ひと際自分の中で惹かれたのは,Camille Corotの作品.一昨年観た「コロー―光と追憶の変奏曲」も良かったが,改めてCorotの魅力を再確認した.昔はバルビゾン派といえばMilletが大好きだったのだが,正直,いまではMilletよりCorotの方が断然いい.彼の魅力を言うなら,一つには地味で抑えたトーンの色彩,一つには雄々しさと慎ましさを兼ね備えた自然の美の表現だ.基本的な技術を踏襲しながらも,人物や風景のとらえ方と色彩は実に個性的.木々の描き方は,言葉では上手く説明できない動きのようなものを感じさせる.今回来日していた中では,「花輪を編む女」が圧倒的な存在感を持っていた.

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 山に育ったから,という理由からではないが(むしろ昔から山歩きや自然に触れる機会を能動的に持たせてもらっていたからだと思う),よくよく考えてみると,自分は木が好きなのだと思う.自分が絵を描いていたときを思い出しても,やっぱり木を書いている時間が一番楽しかったような気がする.かつて縁のあった画家さんのモチーフがいつも木だったことも理由の一つかもしれない.
 とにかく,Corotの絵には,自然のままの木々の強さと静けさがある.Corotは,これまで観てきたどの画家よりも森の木々を描くことに長けているように思う.

 そんなことを思っていたら,少し木の勉強をしたくなった.GW中,書店で機会があれば,山歩き用の木の図鑑でも買ってみようか.あとついでに,Milletの絵も久々にまとめて観たくなった.山梨に行ける時間があるかな…….

2010/04/23

モーリス・ユトリロ展―パリを愛した孤独な画家

 合宿から帰った翌日は平日の振替休日だったので,家から歩いて新宿の損ジャ美術館へ.特に興味があったわけではないし,そもそもMaurice Utrilloなんて画家は聞いたことも無かったのだが,電車の中で散々広告を目にしていたので気まぐれに出掛けてみた.

 気まぐれでのぞいた美術展では大抵大発見があるのだが,今回の美術展については可もなく不可もなくといったところ.初期の独創的な筆遣いと,パリの代名詞にもなりそうな一貫してオシャレな色彩センスは良かったが,モチーフや後期の画風はやや単調で,何時間も観ていたくなるような絵には出逢えなかった.一枚だけ,強烈な色彩の気になる絵があったので,絵葉書を買って来た.

 この日は見事に晴れ渡っていて,建設中のスカイツリーから六本木ヒルズ,更にはレインボーブリッジや幕張メッセまで,東京近郊を遠くまで見渡せた32Fの美術館ラウンジの風景が,良くも悪くも一番印象的だったかも知れない.

2010/04/22

Friends season 9

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 Rachelの出産からグループ旅行までを描くシーズン.あとで聞いた話では,このシーズンが公開されたときには既に次の第10シーズンが最後になることが決まっていたらしい.そういう背景もあってか,物語もしっかりと方向性を持っているし,内容的にも一番重いテーマを持ったシーズンだったと思う.

 まずは,シングルマザーとして新たな生活が始まったRachel.Rossとの間の奇妙な関係や,二人の気持ちのすれ違いが見ていて歯がゆくもある.こういう布石があったからこそ,ラストシーズンでのエンディングが映えるのだが,このシーズンだけ見ると,最後の最後がこれまた定番の軽い話で終わってしまうので,やや違和感があるかもしれない.

 次に,ChandlerとMonicaの不妊治療の話.結局,この話題は「Friends」全シーズンを通じて一番重い話だったと思うし,このテーマがストーリー全体に強烈なリアリティを与えているとも思う.Chandlerの左遷なんかもありながら,結局この二人がそういう壁を乗り越えていく過程は,コメディドラマという枠を超えて心地よさを与えてくれる.実際,このシーズンは泣いたシーンがチラホラあったとか無かったとか.

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 書き残していた「Friends」の残りのシーズンも補完.何だかんだでとても面白かったし,英語の勉強にもなった.感化されやすい人は(人のことを言えた義理ではないが),変な方向に道をはずしてしまわないとも限らないけれど,コメディとして見るには抜群の秀作.ここ半年でまた英語から遠ざかっていたので,財布に余裕も出来ることだし,DVDボックスを遅かれ早かれ買いたいと思う.

2010/04/20

Friends season 5

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 Rossのロンドンでの結婚式から,Ross三度目の結婚までを描いたシーズン.その実,中身はおおむねChandlerとMonicaの交際シーズン.制約からChandlerのキャラクターが若干薄まった感もないではないが,物語の主軸に置かれることが多かったのでファンとしては嬉しい.回想回が少ないのも良かったところ.

 一方,ChandlerとMonicaはもちろんのこと,ロンドンでの一件からRossとRachelもなんやかんやで意識してしまうので,一貫して恋愛ムードな話が多い.おちゃらけた感じの素のままのストーリーは少なめかもしれない.
 また,ほかのシーズンに比べてゲスト出演者が圧倒的に少ないのも残念といえば残念.もっとも,ゲスト出演者が登場しないからこそストーリーが進展するという側面もあるので,その辺りは好み次第.

2010/04/07

マネとモダン・パリ Manet et le Paris moderne

 4月6日に丸の内にオープンした三菱一号館美術館.その栄えある開催記念企画展の主役に選ばれたのはÉdouard Manetだったわけだ.企画展の存在を知ったのはそもそも東京に転居してからなのだが,昨年Manetを好きな友人と話をして以来,Berthe Morisotの肖像はオルセーで一番見たい絵画の一つとなっていたので,今回の巡りあわせはあまりにありがたい.
 本当ならばオープン初日に行きたかったのだが,初日は18:00までで,なおかつ仕事が19:00過ぎまで詰まっていたので断念して,2日目に満を持して入館.そもそも火曜日オープンという奇妙な日程がニクい.水曜日は20:00まで開いているので,まだ研修中ということもあり仕事が終わってから駆けつけても悠々2時間楽しめたのだった.

 さて,本題のManet.正直,「すみれの花束をつけたBerthe Morisot」以外は特に期待をしていたわけでもなかったのだが,なかなか深い美術展だった.

 この美術展で再発見したManetの強烈な個性が三つある.

 一つは漆黒.何といっても,Manetの絵にはほかの画家たちのそれより圧倒的に黒が多い.もちろん黒の中にも濃淡があるのだが,ほとんどの絵の必ずどこかに,混じりけのない漆黒が置いてある.まるでコピーのベタ塗りのごとく,絵を見た瞬間,人物の表情より何より先に黒に目を奪われる.

 二つ目に面白いのが,必ずしも3次元で奥にあるわけではない黒のモチーフを,割と先に塗ってしまっているらしい点だ.そうすると,輪郭を取るにも黒の上に別の色を置いていくので,まるで黒いキャンバスに絵を描いたかのような奇妙な印象を覚えるのだ.更に言えば,明るい色たちがまるで漆黒の絵の具に吸い込まれていくような気さえするのだ.
 特に,「すみれの花束をつけたBerthe Morisot」のように漆黒の服を着た人物を描いている場合,本来3次元では手前に見えるはずの腕や胸元が現実よりも奥まって目に映ったように思う.

 そして最後の一つが,一枚の絵の中でもタッチを明白に使い分けている点だ.混ざり切っていない絵具を牡丹雪のように置いた粗いタッチで描かれた舞台衣装と,それをまとう女性の,まるでシルクを思わせるような滑らかな肌.この気味の悪いほどのコントラストが,却ってManetの面白さを引き立てている.

 以上の三つの点が,Manetの「二次元」と呼ばれる魅力の本源ではないだろうか,と自分は思った.写実性や従来のリアリティを追究しようとすると,より立体的に,より細かく描きたくなる.しかし,実生活でものを見るとき,我々はそれほど3次元を意識しているだろうか.目をこらして流れゆく凝視しているだろうか.
 大抵の場合,経験的に何が手前にあって何が奥にあるかを知っているから,両目で景色を見ても,片眼で景色を見ても,一日の生活は何ら変わらず過ぎていくのだ.その意味で,よほど好奇心が強かったり観察力があったりするでもなければ,視覚世界は2次元で問題ないし,実際,3次元を2次元に潰してしまっていると言っていい.主観的な見方でしかないが,Manetが漆黒を早々に塗りあげることで,Manetの絵は従来の絵よりもより「平凡」で「リアル」な視覚的2次元の世界を再現しているように見える.
 また,一つのものに焦点を当てればほかのものは霞んでしまうものだ.例えば,「Lola de Valence」では舞台衣装のタッチの粗さと表情の繊細さのコントラストが,Manetの興味と視線の先を教えてくれる.ここに視覚的なリアリティがある.

 結局,Manetの絵には二つのブラックホールがある.Manetの視線の先と,漆黒の闇がそれだ.

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 最後に余談.開催二日目の丸の内ということで大混雑を予想していたが,ちょっとオシャレな丸の内の会社員とあたりの良さそうな老夫婦が来ていたくらいで,人の多さに疲れることは全くなかった.本企画展の目玉である「すみれの花束をつけたBerthe Morisot」でさえ,絵の前を3人くらいが入れかわりで流れていく程度.結局,自分は目的だったこの絵を30分くらい観察していたのだが(これはある意味Manetの個性と逆をいっている),その間,人の邪魔になるようなことはたぶん一度もなかった.先日の六本木のRenoirなんかより断然スゴい企画展のはずなのに,同じ平日で随分と違ったものだ.とはいえ,きっと今回も美術展が終わる頃には主催者側のPRも行きわたり,企画展はミーハーな美術ファンたちの大混雑に悩まされるのだろう(自分もミーハー側の人間ではあるけれども開催早々に時間を縫って駆けつけるくらいには一歩先を歩いていると思う).

 ひとえにマスコミの宣伝効果でもあり,日本人の浅さでもあり,ビジネスの余地でもあり,といったところか.企業人としてはこのビジネスチャンスを活かす側に加わりたいが,美術館が経営を続けられるのであれば,今日くらいの閑散さが自分には一番心地いいなと改めて思ったのだった.

 あとは,観客もさることながら,美術館そのものもまさに丸の内といったオシャレさがあっていい.洋館の内装だけを美術館風に整備して,各階のガラス通路からはパークビルのしゃれたお店と庭園が見渡せる.仕事帰りのちょっとしたデートにもいい.

2010/04/03

ダン・ブラウン『ロスト・シンボル』

ロスト・シンボル 上
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ダン・ブラウン
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 Dan Brownの最新作『The Lost Simbol』の邦訳版.帰国して直ぐに買ったものの,資格試験やら引っ越しやらで忙しく,結局読み終わったのは東京入りした先月末のこと.『The Da Vinci Code』に続くラングドン教授のシリーズということで,洋書版が発売されたころから楽しみにしていた(邦訳版が遠くないうちに出版されることを知っていたので洋書版にチャレンジもしなかった).中東欧各国でも,各国語訳がほぼ同時に発売だったようで,どの書店のウィンドウにも飾られていたのが印象的だった.

 さて,その最新作を読み終えて,というか読んでいる途中から思っていたのは,とにかく長い.物理的な長さも前2作より長いと思われるが,それ以上に,展開がやたら遅すぎて正直飽き飽きした.物語のスピード感でいえば,それこそ『The Da Vinci Code』の3倍くらい遅かったように感じた.
 他方,話の展開も,前2作でDan Brownの作風が分かっているからか,ストーリーの落ちが早々に見えてしまったのも残念.言って然るべきことを不自然に隠したり,特別言わなくてもいいことをあからさまに伏線として張っておいたり,逆転への布石が前作よりだいぶお粗末に思えた(偉そうなことは言えないのだが).邦訳はとても良かったと思うので,ひとえに作者の力量といったところなのか.登場した暗号も,特別深みのあるものには感じられなかった.

 一方で,宗教学的なインテリジェンスは相変わらず素晴らしい.歴史の浅いアメリカで,これだけ魅力的な宗教サスペンスを書くには才能以上に相当量な研究と分析が必要だっただろう.そういう面での魅力は健在だ.ただし,今作の場合,テーマの中心に疑似科学的な柱が座っていたので,仮にも自然科学系のハシクレとして研究をして来た一人から見たら,SF映画にも及ばないライトノベルくらいの軽さが付きまとってしまったのは残念.最後の最後で,科学的な根拠や原理を提示してくれたり,疑似科学なら疑似科学なりの方向性を示してくれたりしたら良かったのだが,あいにく,ラストシーンこそが一番期待外れといって良かったかも知れない.

2010/04/02

ルノワール―伝統と革新

 東京復帰後の美術展第一弾は,六本木のRenoir展.平日の昼間だというのに入場で15分ほど待たされる混雑ぶりは,春休みだからこそだと信じたい.
 美術でも演劇でもアニメでも,関西の熱の冷めっぷりときたらある意味ありがたかった(まわりでも自分ほどでも興味を持っている人間はあまりいなかった)が,かと言って毎回毎回大混雑の中をかき分けるような見方はしたくない.もっとも,短期で入れかわる上野の各美術館の常設展に定期的に通うだけでも,十分充実したアートライフは設計できるのだが.

 さて,今回のRenoir展は,ポーラ美術館はじめ日本国内からも多く作品が集まっていたため,それほど目玉というべき作品は無かったと思うし,何だかんだでRenoirの美術展は日本では頻繁に開催されていて関西に来た展覧会は逃さず通っていたはずなので(Renoirが大好きというわけでもないのだが),有名な作品でも観るのは2回目,というものが多かったと思う.今回の美術展で面白かったのは,X線と赤外線による解析により,Renoirの多くの絵の下絵やタッチ,修正の過程などを考察したエリアがあったところだ.Renoirのやわらかい印象が,緻密な計算ではなくひとえに彼の感覚でつくりあげられていくプロセスが伝わってくるようだったし,技術的な部分でもさまざまな工夫や挑戦が見てとれた.

 絵画の方で一番印象的だったのは,「Julie Manet」.彼女は,Manetの弟とBerthe Morisotの娘で,Renoirの多くの絵とはだいぶ違った印象を持った.はっきりとした輪郭があるわけではないにしても,Renoirには珍しいコントラストの効いた肖像画だと思うし,視点を変えるだけで優しさと切なさ,温かさと冷たさといった相反する表情が無限に読み取れそうな魅力もあっていい.この作品は,パリのマルモッタン美術館に所蔵ということで,国内で気軽に再会できなそうなのは残念だ.

 ところで,ManetとBerthe Morisotといえば,今月6日に丸の内に新しくオープンする「三菱一号館美術館」の開館記念企画展で,Manetの名作「すみれの花束をつけたBerthe Morisot」が来日する.残念ながら初日は仕事でギリギリ間に合いそうにないが,翌日は現在の勤務地からでも悠々駆けつけられる.まして,来月か再来月になれば職場も丸の内にうつるので,仕事帰りに空いている時だけ寄って帰る,みたいな贅沢な通い方が出来るのも素敵.こちらは開館記念企画展ということで,全国をまわる予定はないはずなので,早くも東京帰還のアドバンテージにあずかれそうな期待を感じている.

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