2009/10/29

Modigliani (2004)

モディリアーニ 真実の愛 [DVD]
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 画家Modiglianiを描いた作品.昨年大阪で観たModigliani展以来のファンで,この映画も前々からリストアップしていた.

 何といってもVermeerの映画とは対照的に,キャスティングが絶妙.Elsa Zylbersteinの顔が,もうModiglianiの作風そのもの.彼の印象派的な作風を考えれば,必ずしもキャストが作風に似ている必要もないのだけれど,あれだけ“Modigliani”な女優さんを選ばれたら黙ってうなづくしかない.

 脚本,映像,音楽,などなどあらゆる点で美しい.Picassoとのやり取りも見どころ満載.当時のパリの先駆的な芸術観の下,画家たちの暮らしぶり,ジレンマ,信念などが随所に垣間見られる良作だと思う.

 唯一,演出が惜しい.Modiglianiの妄想(芸術家を描く上でこういう演出法が悪いとは思わないけれど)が少し安っぽい.自分の子ども時代の幻影はいいとしても,何の脈絡もなく登場するパレードや禁固のシーンなど,少し違和感が残る(自分の理解力が足りないだけかも).
 自分がこの手で演出をするなら,Modiglianiが影響を受けたアフリカのカリアテッドとその概念的な部分をオーバーラップさせると思う.

 ともあれ,演出で個人的に惜しいなという部分はあるけれども,いい作品(かつ芸術家の映画)だからこその要望というか.

2009/10/28

East of Eden (1955)

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 James Deanに興味があって観た映画.10日くらい前に観たのだが,同じ日に観た「Modigliani(モディリアーニ 真実の愛)」と時代が全く同じ,というのが衝撃だ.

 旧約聖書を知らないので,モチーフが全く分からない為か,今ひとつピンと来なかった.全体通じていい映画ではあるのだけれど,脚本も演出も,古い映画の最大公約数みたいな感じ.正直,「東のエデン」の方がずっと好き.
 旧約聖書のモチーフを知れば,この映画の魅力が分かるのかも.「東のエデン」のネタとしても,旧約聖書の背景を探ってみる面白さはあるかも知れない.

 James Deanはとてもいい雰囲気を出していたけれど,これが彼の素っぽくも見えた.これを書いている時点で,手元に「Rebel Without a Cause(理由なき反抗)」と「Giant(ジャイアンツ)」を借りて来てあるので,この映画と比べてみるのも楽しみの一つ.

2009/10/27

Magnum Force (1973)

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 原題が「Dirty Harry 2」じゃないというのが一番驚いた.「Die Hard」とかも,邦題で勝手に続編にナンバー付けちゃていたりするけれども,この辺は安直かなぁ…….

 第一作はもう何年も前に観たのだが,あまりインパクトもなく,続編には手を出していなかった.長い間をあけて続編にトライしてみたけれど,やっぱりストーリーは割とありがちな話.むしろ,アメリカの病んだ社会に苦笑いしてしまいそうなくらいだ.「踊る大捜査線」シリーズなんかの方がよっぽど凝っていて面白いと思う.

 唯一,主役のClint Eastwoodがカッコいい.昔はそんなに好きじゃなかったけれども,最近,Eastwoodの魅力がわかるようになって来た.役者としても監督としても(「Mystic River」は昔から好きだったけれど).
 特に,銃を撃つときの不完全な感じが凄くいい.何でも完璧にこなすJames BondやEthan Huntとは対照的だ.がに股で不格好だったりするのに,標的だけはちゃんと捉える.まぁ,それくらいであとは相変わらず“Dirty”というほど汚れてもいないし,汚れたヒーローなら「24」の方が断然面白いとは思う.

2009/10/26

Modern Times (1936)

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 Chaplinの映画を観るのは,3年ぶりくらいだと思う.むかし観た「The Gold Rush」なんかはあまり印象に残らなかったけれど,改めて観直す価値はあるかも.

 映画の萌芽期にあって,エンターテイメントと社会評論とアートを一緒くたでやってのけてしまう才能が凄い.時代背景を考慮に入れなければ必ずしも面白い映画とは言い難いと思うけれども,この後の時代の映画に大きく影響していくんだろうな,という予感は随所で感じられた.

 特に,音の使い方が絶妙.ほとんど無声映画であるだけあって,効果音やBGMが物語の流れを決めている.一つ一つの局面で違和感を感じさせない音たちは,どちらかというと古典的な音楽家たちの作曲のプロセスに近い形で生み出されたのかも知れない.

2009/10/25

地球の上に生きる 2009

 京劇の公演を観に行ったついでに,隣のギャラリーで開催されていた写真展をのぞいて来た.入場無料の小さな写真展だったけれど,正直,京劇公演より遥かにインパクトがあった.

 DAYS JAPAN誌のフォトジャーナリスト達の撮影した,平和や地球環境への痛烈な警告が空間を支配する.

 パレスチナやグルジアで無残に殺された子ども達の遺体の写真.
 メディアが伝えないイラクでの惨劇.
 空爆ミサイルの落下の瞬間をとらえた写真.
 赤潮で血を吐いて死んだ海洋動物達の末期. 
 処分された捨て犬達の死体の山.

 どれを取ってもショッキングで,しかし凝視せずにはいられない光景ばかりだ.先日観た映画「Osama(アフガン零年)」で,ジャーナリストがタリバンに公開処刑されるシーンがあったのを思い出しながら,そして自分自身,大学に入学したときにジャーナリストを志していたことを思い出しながら,一つ一つの写真に見入ってしまった.

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 個人的に一番印象に残ったのは,インドを撮影した写真家の作品たち.インドでは,女の子を出産することが忌み嫌われているという事を初めて知った.

 女児を身ごもったが為に,無念の中絶を迫られた女性.
 次こそは男児を産むという占い師の言葉を信じて,6人もの女児を産んできた女性.
 自分の娘達に,男装をさせて育てる母親.

 実はこの夏,タイに行こうかインドに行こうか迷っていて,結局,日程の立てやすさからタイを選んだのだけれど,自分の行こうとしていた国の一部分でさえ,自分がいかに無知だったか.ヒンドゥー至上主義.止まない自爆テロ.発展する経済の影で,世界が見逃しているものがある.

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 絵画や演劇は,観る側も「虚構だ」と心得ているから,プロパガンダみたいな力は持ち得な.写真やドキュメンタリーは,現実の光景を切り取るから,人はすべてを簡単に信じてしまう.切り取った光景が,部分的であったり,意図的に選ばれていたりする危険性をしばしば忘れて.

 マスメディアの舵取り役が人である限り,主観や情報操作を排除することは難しい.

 いまや誰もが簡単に情報の発信源になれる時代だ.フォトジャーナリスト達よ,新時代のメディアたれ.

2009/10/24

武松打店・活捉三郎・関羽と白猿

 前から観たいと思っていた京劇の公演が近場であったので行って来た.学生は料金1000円と安いのも魅力.

 今回は,北京京劇院の訪日公演ということで,短い演目が三つ演じられた.京劇については殆ど予備知識なしで出掛けたのだけれど,京劇には立ち回りが中心の演目,武戯と,歌や台詞が中心の演目,文戯とがあるそうで,今回はその両方を観られたのが良かった.日本の新劇や現代劇とも,西洋のオペラなどとも違う,オリエンタルな演劇は新鮮そのもの.特に,最終演目の「関羽と白猿」は,雑技団的な立ち回りもあって楽しかった.

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 ただ,新鮮だったという点を除いては,今回の公演は決して大絶賛したくなるようなものではなかった.

 まず,音楽.大鑼,鐃,小鑼と呼ばれる金属楽器のいずれかだと思うのだけれど,余韻を残さずに手で音を止めてしまう演奏の仕方がとても気持ち悪い.日本人の音感に合わないのか,この演者の演奏の仕方に問題があるのか,劇場の音響が悪いのか,その辺りは幾つか公演を観て比較してみない事にはわからないけれども,不快な感じさえする途切れ方だった.この金属楽器と太鼓が,一貫して劇の拍子を取っていくものだから,音楽の後味は良くなかった.

 音楽に限らず,大道具や舞台芸術もさびしい.個々の俳優の衣装は,それこそ「京劇」の印象そのものともいえる鮮やかなものが仕立てられているのに,広い部隊の上に大道具や舞台背景は殆ど無し.いや,殆ど無かったり,全く無い代わりに,全てを演技でカバーするというコンセプトならそれはそれで却って面白いのだけれど,中途半端に舞台が仕上げられてしまっている感は否めない.時折でてきた小さめの背景も,正直,プロと呼ぶにはあまりにお粗末な仕上がり感だった.

 また,台詞.これも,京劇のスタイルなのか,俳優の問題なのかは分からないけれども,完全に声量が音楽に負けてしまっている.今回は,日本公演ということで日本語字幕があったから良かったけれども,中国で舞台に立つとき,あの声量ではオペラやミュージカルのように台詞を観客に伝える事が出来ないのではないか.

 最後に,脚本.古い演劇のスタイルという背景もあるのだろうけれど,脚本が陳腐でいま一つ.同じ古いでも,オペラや歌舞伎の方が断然,奥深さがあっていい.今回観た演目は,そこから煮えたぎるメッセージやテーマといったものが微塵も感じられず,どちらかというと雑技の立ち回りを魅せるところに重きを置いている印象だ.

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 そんなわけで,初の京劇で,新鮮味と演舞の迫力は大いに味わえたけれども,自分のセンスとの相性という意味ではいま一つ.これを京劇との相性と決めつけてしまうには少し尚早な気がしないでもないので,機会があれば本でも買って京劇のなんたるかを勉強してみたい.

 余談にはなるけれど,京都芸術劇場は,京都造形芸大の持つ劇場だ.有名公演も行われる大きな劇場だ.造形芸大には,むかし学園祭に遊びに行った以外では,就職活動をしているときにデザインや演劇関係の勉強で何度か足を運んだ.

 当時は勉強のつもりで出掛けていたので,あまり他の情報には目もくれなかったけれども,劇場や大きいギャラリーをいくつも持っているだけあって,毎週のように面白そうな公演や展覧会が開催されているらしい.京大なら,有名な研究者の講義や研究会が毎日開催されているけれども,自分には芸術関係の方がよっぽどインスピレーションになるんじゃないかな.これは6年間惜しいことしたかも…….京都を離れるまで,通い詰めてしまいそう.

2009/10/23

Picture Perfect (1997)

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 JenniferかわいいよJennifer.

 ストーリーもモチーフも割と平凡で,特別,記憶に残る映画という訳ではないけれど,Jennifer Anistonが素敵過ぎるので問題なし.Kateのキャラクターが「Friends」のRachelと似ている気がしないでもないけれど,Jennifer Anistonがキュート過ぎるので問題なし.ひどく残念な演出も,抜群に光る演出も無いけれど,Jennifer Anistonがハッピーエンドを迎えたので問題なし.

 強いて言えば,パッケージに書かれているキャストの順番も気に留めずに観たので,最初の20分くらいで予想した結末とは真逆だったのがやや新鮮だったかも.

 全く話は変わるけれど,ラブコメ見てると広告代理店勤務って多いんだよなぁ.日本の,広告代理店信仰も,実のところお得意のアメリカかぶれなんじゃないかなんて思ってしまう.

2009/10/22

The Miracle Worker (1962)

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 迫力のある映画だった.今の時代の親達にこそ見て欲しいとも思った.昔の映画ってスゴいな.

 Helen Keller役のPatty Dukeの演技力が凄過ぎる.Sullivan先生役のAnne Bancroftも鬼気迫る迫真の演技だったけれども,それでもPatty Dukeの存在感には遠く及ばない.これまでの名子役と呼ばれた名優たちがかすんで見えるほど,Patty Dukeは次元が違うと思った.

 ストーリーも,伝記そのものを映像化するではなく,コンセプトできちんと輪郭がつくられたいいものだったと思う.何でもかんでも詰め込むのではなく,Helen Kellerが言葉の意味を知るというある意味一つの目的地に向かって,テーマも脚本も演技も,全てメリハリを持って組みたてられていたように感じる.

 そうした完成度の高い土台の上で,あれだけの名演を見せられたら,泣くよりも拍手を送りたい気持ちになってしまった.まぁそれでも,今年の映画ナンバーワン候補は「Before Sunset」で揺るがない.

2009/10/21

10年後の名刺

 就職活動が終わってからは,実を言うと結構な数の飲み会に誘われる.時には飲み会という名の,合コンだったりもするわけで,就職の話はつきものだ.

 そうすると,自分の場合,内定先は大手ではあっても平均年収や将来性といった面で特別ステータスが高いわけでもないので,学歴に対して分不相応,いやな言い方をすれば就職負け組,とみなされることが結構ある(実際の待遇面は別として).
 まあ,そういう見方もあるだろうし,そういう人達の前であまり誇示するのもカッコ悪いので,大抵はまわりの話を聞く側にまわってしまう.

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 肩書きの色眼鏡で人を見てしまうのは,もったいないことだと思う.要するに,学歴でも仕事でも,趣味でも恋愛でも,その人がどういう肩書きを持っているかじゃなくて,何をして来て,何をしているのかが自分にとっては大事なファクターだからだ.

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 学歴だけ見ていても,高学歴の社会人なんか世の中に腐るほどいるわけで,結局は,何をして来て,何が出来るのか,が大切だ.自分なら,専門や趣味,経験についてならごまんと話が出来るけれど.学歴はアイデンティティにならない.

 仕事にしたって,業界は多岐にわたるけれども,「職業」とか「職種」で見たら,例えば経理を担当している社員はどこの会社にもいるし,営業を担当している社員もどこの会社にもいる.結局,トヨタの営業がスゴいのではなくて,どこの会社でも人一倍仕事をこなせる営業がスゴいのだ.

 いわゆる(日本での)肩書きなんて,日本の,しかもその時々のご時世でしか役に立たないものだと思う.学歴だって,賞味期限がすぐやって来る.むしろ,自分自身が肩書き,みたいな生き方がカッコイイ.

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 昨日,知り合いの書いた文で,“「□□に入るなんてあの人はスゴい!」と思われるより,「あんなスゴい人が□□入ったの?」と思われる生き方をした方がいい”という話があった.

 残念ながら自分の場合,学生時代は京都散策に呆けて実績らしい実績は何も残せなかったので,“あんなスゴい人”と言われる覚えはまるでないけれど,うまいこと,地味な会社を選んで,失笑されることも多い身分だから,内心ではシメシメと思っていたりもする.大企業にあって,最初からエンジンとして働けるというのは自分にとって大きな魅力だ.

 自分の場合,軌道に乗れれば数年後に転換期が待っている.そのとき,“昔はパッとしなかった○○社だけど,アイツがいるから今は怖い”と,自分の名前が名刺代わりになるくらいの存在感を持てたらいいなぁ.キャリアにこだわりがあるわけじゃないけれど,つかんだチャンスは最大限活かしたいし.

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 とかなんとか言って,1年後には黒歴史としてこのエントリーを絶望の眼差しで読み返していたりするわけです.はい.

2009/10/20

Kill Bill: Vol.2 (2004)

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 前作で,アクションも音楽も皮肉も全て出し尽くしてしまった感があって,後半に相当するVol.2は全体的に単調だった.Pai Meiなる爺さんの登場も,Billとのやり取りも,Vol.2ならではのシーンがことごとくVol.1のアクションシーンに負けてしまっている感じがして残念.この辺も,敢えてB級感を出す演出なのかなぁ…….

 話は変わって,最近は筋トレをしながら,或いはPCでシミュレーション用のプログラムを走らせながら,一日一本くらいのペースで映画を見るようにしている.ここに書いているのは,今年の夏以降に観た(観直した)映画だけれど,それでもまだまだストックはたまっている.修論の締切まで余裕のあるこのあたりでまた一時シットコムに流れておこうかな.

2009/10/19

Kill Bill: Vol.1 (2003)

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 Tarantinoが大好きになりそうだよ.

 この映画自体,歴史に残る名作ではないと思うけれども,
Tarantino自身もこの映画で何かテーマを描きたいとか大作を創りたいとか,そういう意志を持って取り組んだわけじゃないんじゃないかなと思った.
 もうアクション映画と言ってもツッコミ所やネタ要素満載で,そのネタの振り方は何となく「TRICK」っぽい感じがした(もちろん,世界観もストーリーも全く違うのだけれど,ギャグセンス的に).下手したら,酔っぱらって作ったんじゃね,くらいの感じ.

 ストーリーも演出(章立てにするところとか)も,安っぽい少年漫画のようで,それなのにアクションシーンと音楽だけは妙に迫力がある.人がバタバタ死んでいく割には,観終わった後に不快感が残らなかった.

2009/10/18

Girl with a Pearl Earring (2003)

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 劇中のScarlett JohanssonがRiver Phoenixに見えてしまって仕方ない件.別の女優さん使った方が良かったんじゃないだろうか.キャスティングに関してはもうちょっと練って欲しかったかな.

 Vermeerとその名画「真珠の耳飾りの少女」をモチーフにした映画.実際にこの絵を見たことがないのでどれくらいインパクトが絵なのか本当のところは分からないけれども,Vermeerをとりまく世界をよく描いていた映画だと思う.
 特に,色に関する描写が良かった.自分は彼の,光を巧みに操った黄色の方が青より断然好きなので,黄色に関する台詞が印象的だった.久々に,油絵を描きたくなった.

 ただ,個人的にVermeerの魅力の一つは,観る者に解釈やストーリーを委ねる自由度を持っているところだと思っている.パトロンありきの時代にあって,最盛期の絵からはそうしたパトロン達の影が感じられない.
 だからこそ,こうしてコンテクストやパトロンとの関係を具体的に描いてしまうと,肝心のVermeerの絵の魅力そのものを制限してしまう気がしてならない.原作の小説も読んではいないが,画家のフィクションを映画にしてしまうというの危険な事だと思った.これを史実だと思ってしまうと,Vermeerを見誤ってしまう事もあるかも知れない.

 Vermeerを映画に描くなら,それこそ「The Da Vinci Code」的な作品の方が面白いと思う.

2009/10/17

Sister Act 2 (1993)

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 だいぶ前に観た映画.続編じゃなくても良かったかな.

 93年のアメリカの学級崩壊なんて高々こんなものか,と思ってしまうくらい生徒達が素直で輝いていた.窮地の学校を蘇らせたというよりは,適切なリーダーの下で成功すべくして成功した必然のストーリーではないか.前作と違ってメインキャラクターが多くコンテクストも多彩である分,広く浅くになってしまった感も否めない.それでも泣いてしまうのだから,自分は相当単純なんだろうと思う.

 シスターでなくても良かったけれども,程よく個性的な前作のキャラクターは活きていたし,相変わらず音楽的な魅力は満載.原題の“Sister Act”よりは邦題の“天使にラブソングを”の方が今作は言い得て妙だったと思う.

2009/10/16

雑記#008

 HNは,とあるアルバムのタイトルに由来しています.
 あんまり深い意味はないんです.

2009/10/15

Pi (1998)

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 一般人から見れば限りなく数学的なリアリティはあると思うけれど,いざ数学に近いところにいる人間から見たらオカルトでしかない.映像や世界観には独特の雰囲気があって良かったけれども,期待したほど深い内容ではなかった.

 森羅万象は数字で記述でき,数字には必ず法則が存在する,という仮説(という名の信念)の下,主人公はある216桁の数字の深みにはまっていくわけだが……とてもその思考が数学的とは言えない.主人公は株価の変動予測に至っては,痛々しくて目も当てられない.

 そう,字幕では盛んに「数字」という表現が為されていたけれども,この訳はたぶん的確だ.この映画の根本的な安っぽさは「数」ではなく「数字」の規則性を主軸に置いてしまっている点にある.森羅万象の法則性は,たとえ整数論に準拠するものだとしても,10進数や実数に固執する理由はどこにもない.並んだ数字そのものではなくて,数としての本質に全くと言っていいほど触れていない.あまり好きな映画ではないけれど,「Beautiful Mind」の方がよっぽど理系には見やすい映画だと思う(ドキュメンタリーなので当然と言えば当然だが).

 この映画の良さを挙げるならば,映像と音楽.モノトーンの映像に不快な機械音とテクノミュージック(Aphex Twinも使われていたよう)が,映画全体の輪郭を強調している.あと,小ネタとしてはヘブライ語と数字の対応の話は,「The Da Vinci Code」的な面白さがあって良かった.

2009/10/14

ウイリアム・ケントリッジ―歩きながら歴史を考える

 広告がとても印象的で,前々から観に行きたいと思っていた美術展.連休を利用してやっと行って来た.徒歩5分の近代美術館なのに,だいぶ遅くなってしまった.

 今年は美術展,演劇,音楽などなど,就職活動をきっかけにかつての芸術熱を取り戻した言わば,自分の中での芸術ルネサンス年だった.訪れた美術展は軽く二桁を超えるのに,どれもとても質の高いものだったと思う.

 そんな中にあってなお,この美術展のセンスは今年最高級だった(と思う).モノクロの色遣いだというのに,いや,モノクロだからこそモチーフの力強さが限界までにじみ出ている.木炭やポスターカラー,コラージュなど,素材や手法の使い方も絶妙.帰りがけに,スケッチブックを買ってしまった.

 美術の手法という点でも,多くの現代美術ほど自由過ぎず,近代美術ほど歴史にこびず,一貫してアイデンティティを感じる作家だったけれども,モチーフの選び方や,映像の演出がまたいい.前に見た,Renoir Jr.の映像には全く魅力を感じなかったのに.基本的に,この美術展は映像と美術が半々といったところなのだけれど,William Kentridgeの作る映像には,現実と空想の壁を完全に壊してしまったようなインパクトがある.現実から,どういう瞬間的な思考を経て芸術に昇華されるのかが,映像の中で感じ取れるようだ.

 日常的な光景や歴史的な映像を思いつきや好奇心でいじくりまわす,そうして出来た作品たちは,まるで子供のような遊び心に満ちている.彼にとって,日常生活そのものが,大きなおもちゃであるかのようだ.こういう気持ちは,自分も日常生活の中で常に意識しているつもりだし,感じていたいけれども,こうしてアウトプットすることが仕事に出来るって,本当に素敵だなと思う.もう一度少年時代からやり直せるなら,ぜひとも美術や映像,演劇といった世界に飛び込みたいと改めて思わされた.

 うーん……うちの学生は提携の関係で企画展も250円.今週末,もう一回行って来ようかな…….

2009/10/13

Hanging Up (2003)

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 Diane Keatonが監督をしている,ということで観た映画.Walter MatthauとMeg Ryanの組み合わせを見せられたら,「I.Q.」のEinsteinと姪の数学者の天才コンビにしか見えない.ついでに,Lisa KudrowがPhoebeにしか見えない.今にも“Smelly cat”を歌い出しそう.

 別にこの家族が特別だとも悲劇的だとも思わない.けれど,日常的なモチーフの映画や小説も嫌いじゃない.世間で言われているよりは,考えさせられる映画なのかなと思った.

 最近,両親がグッと年をとったなと感じることが多い.外見ではなく,考え方や感じ方という点でだ.物事を客観的に見られなくなったり,思考が短絡的になったり.母に関しては昔からそうだったけれども,母に似てしまったのか年をとったのか,最近では物事に疑ってかかったり,裏側を探ろうとしたりする若さが色褪せてしまったと思う.
 自分の場合,両親は老後の面倒を見て貰うより,子供たちに自由に人生を楽しんで貰いたい,というスタンスの持ち主なので,老後も今と同じく,友達みたいな付き合い方をしていければいいかなと割り切れるけれども,今の高齢化社会を見るに,切実に問題を抱えていく人達も多いだろうなと思った.

 繰り返しになるけれど,この映画が特別悲劇的なモチーフを選んでいるとは思わない.しかし,このレベルのフラストレーションが社会レベルで湧き出してしまったら,その代償も少なくないと思う.

2009/10/12

Osama (2003)

アフガン零年 [DVD]
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 院生が映画なんか見ている時間あるのか,って話だけれど,正直,無い.それでも最近は,帰国後太った体を元に戻すために筋トレをしながら時間を作って少しずつ見ている.

 この映画は,タリバン政権下のアフガニスタンを,女性差別の観点から描いた作品.映画というよりは,限りなくドキュメンタリーに近い作品.昔見た「THE GREY ZONE(灰の記憶)」に近いにおいを感じた.

 テーマがタリバンやアルカイダの軍事的な搾取や暴政でないからこそ,アフガニスタンという国の本質が見える部分もある.この作品がどれほどリアルなものなのかを,今となっては正確に知る術はないけれども,少なくともテロという一言で全てを知ったかのように錯覚してしまっている我々に,別の悲劇を感じさせてくれる作品だ.

 それでも,この映画を見る限りで,人々がタリバン政権にこれほどまで従順で居続ける理由がいまひとつ見えてこない.イスラムの教義であったり,タリバンのそれこそ軍事的な力であったりと,自分の知らない背景が多過ぎるのも一因だけれど,この圧政を打破出来る芽は,本当に国内に無かっただろうか.

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 少し雑談を.

 「国という概念はもう古い」というのは,自分がここ6年くらい言い続けているスローガンだ.といっても,アクションを起こすような活動家でもないし,一つの価値観にとらわれ過ぎない為の戒めくらいの軽い気持ちで掲げているに過ぎない.
 ただ,最近(特にObamaの就任や日本の政権交代をきっかけにして),切実に思うのは,そもそも「国」なんてただの大きな「私」じゃないか,という事.日本みたいに“社会主義”が上手く機能している国はまだしも,度重なる紛争で政権を勝ち取った政府,宗教によって均衡点を見つけた政府,どのような場合であっても,国とは,結局,社会システムという形をとった大きな「個人」でしかないと思うのだ.

 国家や政府の形が様々なのも,結局はそれらが自然的な必然性を兼ね備えていないあらわれであり,「私」であるがゆえの個性ではないか.国が「私」である事は,ナショナリズムもグローバリズムも否定するものではないはずだ.ただただ,その国家が絶対的なものではない事に,可能性を見出せるだけだ.

 社会論的な難しい事は分からないけれど,Lockeあたりが言っていた社会契約って考え方そのものに,そろそろ限界が来ているんじゃないかなという気がしないでもない.社会契約に失敗している圧政国家であれ,成功している先進国であれ.

 ものすごく直感的な言い方をすると,社会契約って,なんとなく物理でいうところのエルゴード性を無理やり人間社会に認めさせちゃっている感じがするんだよなぁ…….相変わらず,何が言いたいのかサッパリ分からないな.

 市民革命の頃の啓蒙思想や社会契約論を,一から勉強しなおしてみたい.

2009/10/11

If These Walls Could Talk 2 (2000)

ウーマン ラブ ウーマン [DVD]
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 タイトル借りしたレズビアンTV映画.今年観た映画の中でも指折りのインパクトがあった.ある一軒家にそれぞれ別の時代に済んだレズビアン達の短編3本から構成されるオムニバス形式の映画.元々,別の映画の続編として作られたものらしいのだが,つながりはなかったので別作品として普通に観られる.

 この映画の内容を一言で言うならば,「叫び」だ.
 社会から理解を得られず,葛藤に悩まされ,それでも死にもの狂いで自分達の愛を貫こうとする姿は,正直,その辺に転がっている安上がりな性欲より遥かに高貴で美しいものに見える.この映画の,特に老女のストーリーからは,いたたまれないほどの強い衝動が伝わって来る(病院から帰るシーンでのエフェクトがなければ最高).Sharon Stoneだけが何となくミスキャストだったかなぁ…….「氷の微笑」の影響もあるのだけれど,真剣に子供を持とうとするレズビアンを演じるには少し無理があった.
 あとは,邦題が安っぽ過ぎる.どうして英語の原題に,安直な英語の邦題なんかつけるかな.三単現の「s」はどこ.同性愛を卑下しているようにすら見えて少し不快な邦題だと思った.それ以外は,脚本も音楽も映像も,物凄くインパクトとテーマ性があって素晴らしかった.

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 自分はいわゆる「ストレート」ではあるけれども,「Friends」を見ていると,登場するサブキャラクターの5人に1人くらいが同性愛者だったりする.それくらい,同性愛は身近なテーマだ.そして,自分自身,同性愛にある種の美や可能性を感じるというのも多分本当だ.

 生態学には詳しくないけれども,「同性愛」が散見される動物って,人間くらいのものなんじゃないだろうか.この同性愛が安易な好奇心からではなく,この映画で描かれるような真摯な愛情に由来しているものだとすれば,それは人間の知性と感性が織り成すとてつもなく崇高な現象のようにも思う(オノナツメさんの作品を読んで少し前にそんな事を考えた事があった).

 人間が創り出したもののかたちを,「神秘的」と呼ぶか「人工的」と呼ぶかは紙一重だ.多分,同性愛の存在に否定的な人達は,それが人工的で,自然の摂理に反するという観点に立っているのだと思うけれど,超自然的に言えば,そもそも性がオスとメスの2種類である事そのものに数学的な必然性はなくて,無性生殖で種を保存する生物も地球上には存在する.同じように性が3種類とか4種類であってはならないという事も決してない.問題は,メンデル的な遺伝則に従ったとき,性が3種類に増えただけで遺伝情報のおびただしい情報爆発が起こるという事だ(と,生命情報系の先生が言っていた).今の人間の脳や遺伝子では,その情報量を処理出来るだけのシステムが備わっていないだけだ.

 話は少し逸れたけれども,こういう思想もあって自分は同性愛を自然の摂理に反する行為だとも思わないし,むしろ人間の進化の可能性かも知れないくらいに思っている.あと,個人的には,男女間の愛でも,セックスの占める割合は1割とか2割でいいと思っていて,残りは家族愛や隣人愛にも似た,人間的な尊厳の関係であっていいとも思う.
 知性や理性,感性のない動物にとってセックスが愛の10割であるのとは裏腹に,人間の愛はセックス以外の部分があるからこそ人間らしいのだと思う.ならば,ある意味でセックスを放棄した同性愛の形は,この世で最も人間らしい愛の形ですらあるのではないかと,考えた事がある.その辺は,自分自身が当事者ではないので何も確信的な事は言えないのだけれど.

 最後に,最近,やれ「腐女子」だのなんだので,同性愛がサブカル市場の消費財として一般化してきている.ある腐女子の意見を聞いて,それはそれで確固たる理念を持って同性愛に惹かれている人達も少なからずいる事は分かったけれども,それにしても,ある意味ネタとして同性愛を扱う事は,当事者達からしたらとてつもなく悔しい事なのではないかと思う.

2009/10/10

雑記#007

 先日,東京から帰る新幹線の中で,銀行通帳を落としたらしい.通帳はケースに入っていて,荷物整理中に分厚い規約集を残して器用に落ちてくれたようだから,銀行から電話が掛かってくるまで気付かなかった.いい笑い話が出来た(笑い話で済んで良かった……内定取り消しなんて事にはならないよな……).

 通帳は使用停止の手続きを取って貰っていたので,警察から通帳を引き取ったその足で停止解除して貰いに銀行に行ったら,カードの更新やら新サービスへの加入やら色々とすすめられた.もともとマイレージには遅かれ早かれ切り替えようと思っていたので,ついでに全部更新して来てしまった.

 ところで,カードの付加サービスのオプションの中に,SUICAの機能を追加する,というのがあった.実は自分はいまだにSUICAもICOCAもPASMOもPiTaPaも持っていない!情報には敏感な方だけれども,この手の電子マネー&カードと,モバイル端末の最先端には,完全に乗り遅れてしまっているのだ.
 今回は,銀行カードとSUICAを一つにするのはリスキーかなと思って別のオプションを追加して来たわけだけれども,東京で友達と動くにも最近ではいつも切符を買うのに待たせてしまっているので,いい加減使い始めないとなぁ…….

 ただ,SUICAとPASMOならどっちかなぁ…….修論の危険度からは目を背けて,来年から東京だとするとこの二択.正直,使用エリア以外の違いがイマイチ分かっていないので,ちゃんと調べて次に東京に帰った時に買ってしまおうと思う.

2009/10/09

Friends season 7

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 シーズンの順番はランダムに観ていて,これを書いている時点で6つは観ているけれども,一連のストーリーの中でも時間の流れが一番感じられるシーズン.MonicaとChandlerの婚約から結婚までを追っていて,お腹を抱えて笑うシーンは少ないけれども,重さと軽さがバランスよく散りばめられた印象的なストーリーが多かった.

 このシーズンに限らず,「Friends」を通じてChandlerの可愛さが圧倒的.俳優も,設定も,台詞も,全て抜群.6人の中でも特に魅力的なキャラクターで,「Friends」後半は特にChandlerの存在感がグッと増すから面白い.ChandlerとRachelがいれば十分ストーリーになるよなぁと思い始めたシーズンでもある.
 逆に,Joeyはどうしても生理的に受け付けなくて,愛嬌はあるのだけれど度を過ぎた無知さ加減と幼さがどうにも苛立たしく見える.Joeyだけ別枠で続編まで出ているあたり,アメリカ人はこういう笑いが好きなんだろうなと思うけれど,どうも自分には抵抗がある.これは,このシーズンに限らず感じている印象.

 序でに,役柄なしの俳優だけで選ぶなら断然,Jennifer Aniston.Rachelのキャラクターもとてもいいけれど,あの気取らない小奇麗さにノックアウト.Julie Delpyと並んで,今年の大ヒット俳優の一人.見た目だけで言うなら,Angelina Jolieが全然好みじゃない分,Brad Pittの気が知れない.

2009/10/07

鹿鳴館

 浅利慶太さん演出の三島由紀夫原作『鹿鳴館』.「アイーダ」を見る予定だったのが,日程調整でゴタゴタしている間にチケットが完売してしまったのでこちらを手配した.

 四季の新劇舞台は初めてだったけれど,ミュージカルの方がいいかなぁ.原作を読んでいないので,ひょっとするとこの傾向は三島由紀夫によるものなのかも知れないが,一つには,説明的な台詞がとても多い.自分の演劇観は,平田オリザさんのリアリズムにおおむね賛成で,日常的な脚本になるべく近い形で観る側と徐々にコミュニケーションの糸を紡いでいくところに魅力があると思っている.その意味で,冗長で語り過ぎな脚本と演出がやや残念.台詞の語り口調も,ミュージカル向きかなといった印象.

 一方,作品そのものには物凄くインパクトがあった.今や昼ドラでありがちにさえされそうな人間関係だが,その中での人間模様,愛憎の描き方や展開の仕方はとても見事.特に,鹿鳴館の華やかさと人間の卑しさのコントラスト,客観的に自分を見つめる事で内なる醜さに理屈を与えようとする人間の滑稽さなど,(良くも悪くも)文で伝わる以上の情報を持って容赦なく,その世界観が脳裏に焼き付けられるようだった.

 これも,原作知らずなので,三島の文才によるものか,浅井さんの演出力によるものかは分からないが,『金閣寺』などを思い出してみるに,三島由紀夫の文学観のあらわれの一つである事には違いないと思う.

2009/10/05

トリノ・エジプト展―イタリアが愛した美の遺産―

 東京都美術館で開催されていたトリノ・エジプト展.トリノにあるエジプト博物館のコレクションが来日しているというだけの美術展で,雨の平日という事もあってガラガラだと思っていたら,中高年の人足が異常に多く,あわただしく出て来てしまった.

 美術展の面白さは,一つのテーマに沿って美術品が集められるところにあると思う.

 CDの世界で,普通のアルバムがアーティストのテーマに沿って作られているのに対して,ベストアルバムがその中の選りすぐりだけを集めたものになっているのとは全く逆に,美術の世界では,選りすぐりの作品のベストアルバムになっている美術館に対して,美術展が作者やテーマで芸術を終えるアルバムに近い性質を持っていると思う.

 そういう意味で,このトリノ・エジプト展は今一つ物足りなかった感じ.もちろん,一つ一つの展示品は歴史もある素晴らしいものが多いのだけれど,それなら単純に,トリノに行けばいいのだ.
 尤も,トリノのエジプト博物館は既に「エジプト」という一つのテーマで作品を集めた美術展なので,「ルーブル美術館展」や「メトロポリタン美術館展」というのとはまた意味合いが違いはするのだけれど,むしろ,今回来日していない展示品の意図を汲めない分だけ,この手の美術展はマイナスですらあるかも知れない.

2009/10/04

聖地チベット―ポタラ宮と天空の至宝

 上野の森美術館にて,チベット美術の展覧会を鑑賞.実を言うと,今回の東京滞在中に行く予定だった美術展はどれも博物品や彫刻といった系統のもので,純粋な絵画の美術展でないものばかりだったのでそれ程大きな目的があって訪れたわけではないのだが,古代ローマ展と聖地チベット展は期待以上だった.

 さてこのチベット展,何より仏像の迫力が物凄い.もうその目を長時間見ていられないくらい威圧的で凶暴な視線と表情.先日タイを訪れ,日本とは違った仏教の流れを楽しんで来たばかりだが,むしろタイの仏像よりも遥かに異形の,抜群の存在感にすっかり惹き付けられてしまった.

 高山地帯の歴史や思想,暮らし振りなどひしひしと感じられるものがあり,近年関心が高まるチベット問題に関しても,中国のバイアスを抜きにして再考させられる機会にもなったと思う.

 展覧会が始まって日が浅い平日という事もあって,鑑賞客がほとんどいない状態で楽しめたのも良かった点の一つ.

2009/10/03

古代ローマ帝国の遺産―栄光の都ローマと悲劇の街ポンペイ―

 就職の関係で東京に滞在していたので,久し振りに美術展をハシゴする贅沢なオフが楽しめた.やっぱり東京はいい.美術館と劇場とカフェをまわるだけで気持ちが浄化されてしまう.向学心にまかせて一人で歩く京都とはまた違った味がある.

 どちらかといえば博物展に近い展覧会ではあるのだが,古代ローマ帝国の魅力は期待以上だった.何といっても,キリスト教の影が感じられないのが新鮮だ.西洋史には常にキリスト教がつきもので,美術や建築にもその影響が如実にあらわれる.宗教的な意図のあるそれらはそれで魅力的ではあるのだけれども,芸術家の主観が殺されてしまったり,芸術の並列化が起こってしまったりといった印象も否めない.宗教を否定はしないけれども,個人的にはキリスト教にせよイスラム教にせよ,宗教は大きな目で見ればある種の帝国主義だとも思う.

 ところが,古代ローマはCaesarの独裁的な影響力はあったものの,その文化は宗教よりも神話によっているところが大きい.神話とは,突き詰めれば自然の解釈であり,人間の空想である.これらを芸術に昇華した古代ローマ帝国の文化は,一般に連想させられる西洋の文化とはかなり異質な雰囲気が感じられた.

 政治の概念や,休日の概念など,現代の文化に引き継がれる社会システムの萌芽が文化から垣間見えるのも実にいい.モザイクで飾られた食堂や噴水,広場の遺構の数々には,2000年の時を経ていまなお人々の生活に引き継がれている人間臭さが漂う.それも,異国情緒としての魅力ではなく,むしろ日本人にさえつながる人間臭さなのだ.

 余談ではあるが,平日の昼間という事もあって人が少なかったのも良かった.何しろ,この後にハシゴした東京都美術館のエジプト展では,中年の鑑賞客がごった返していて,とても落ち着いて観られる状況ではなかったのだ.いくら収益が伴うといっても,これくらい静かで落ち着いた環境は保持する努力をして欲しいと思うのは傲慢だろうか.

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