2009/12/31

ライオンキング

 劇団四季のロングランミュージカル,「ライオンキング」.劇場[春]で観たのは今年初めてだったけれども,実は地方公演で一回観たことがあったので観るのは二回目.ただ,やっぱりライブオーケストラのある東京公演は格が違う(しかも学割が効く!).バルコニーからだとオーケストラの演奏まで見えるのもいい.

 やっぱりコレなんだなぁ.

 四季の面白さはストーリーと演技だけじゃなくて,造形美と音楽が結構なウェイトを占めているというのは最近よく分かって来ましたが,この造形美と音楽も存分に魅せつけてくれる演目が「ライオンキング」.原作のディズニー映画でさえ圧倒的に凌駕する大迫力.現地ではこれの更に上を行くのか.

 特に子役の迫力が圧倒的.洋画なんかを観ていると,日本の子役の演技力の無さに失笑してしまう(それこそ自分が子どもだったころの方が絶対上手く出来たはず……まともに感性と経験と度胸が備わっていたら最低限の演技は出来るだと思うのだけれど)ところだが,四季はじめ今年観させてもらった多くの劇団の子役たちの安心・安定の演技力を観るに,単にくだらない利権とお金でまわっている芸能界が腐っているだけだとわかるのだ.

2009/12/30

The Lion King (1994)

ライオン・キング スペシャル・エディション [DVD]
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント (2003-10-10)
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 ディズニー映画ライオン・キング.ギリギリで手塚治の遺作アニメ,ジャングル大帝の3期を生で観ている世代なので,類似点とか何とかといわれたらそれはそれでわからないでもないけれど(ちなみに盗作騒動における手塚プロダクションの器の大きさがすごい),ライオン・キングもそれはそれで面白い.キャスティングもWhoopi Goldbergはじめ豪華な顔ぶれだが,そこは楽しめるポイントでもないか.

 何がいいって,やっぱり音楽がいい.ディズニーのアニメ映画なんてあまり数も見ていないけれど,知っている作品はどれも音楽に凝っていると思う.耳に残るメロディーラインがいい.単純なアニメーション技術でいえば,日本の圧勝だと思うけれど,音楽に限っていえばディズニーは流石だと思う.そもそも,音楽に対する予算の比重も違うと思う.

 この映画でいえば,あとでミュージカル化されているけれども,ミュージカル化されるにあたって音楽を再編したというよりはほとんど原作のこの映画の音楽や歌をそのまま使っている(ということを映画を見て初めて知った).ミュージカルの方は都合2回観ているけれど,あのハイクオリティな完成度もこの映画ありき,ということか(ただライブ演奏ということもあってミュージカルの方が圧倒的に迫力はあるけれど).

 ストーリーも,子どもが観ても大人が観てもそれぞれに楽しめるものに仕上がっていると思う.風景としてだけではなく,自然界の全体的な美しさが感じられる.

2009/12/29

コーラスライン

 「コーラスライン」の日本版ミュージカル.ブロードウェイ版の振り付けや演出を担当したMichael Bennettから浅利慶太さんが直接伝え受けたとのことだ.

 迫力も満点,特にダンスは生が圧倒的にいい.四季の見どころは(たぶん)演技に限らずダンスや造形美,音楽と,演芸全般に渡るので,この前に見た「鹿鳴館」みたいな戯曲的な演目よりもいろいろな面で楽しい.実際,例えば田邊真也なんかは鹿鳴館にもコーラスラインにも出演していたけれど,端役的なコーラスラインのポールの方が活き活きして見えたりとか.

 ただ,普通のミュージカル以上にアメリカの文化や価値観に依存している演目だと思うので,日本人が日本語で演じる,というのにどうも違和感が抜けなかったかな.

 夏にブロードウェイの来日公演があったことを知ったのはもう公演が終わってからのこと.著名人のブログで鑑賞報告を読んで初めて知ったのだが,その時期には海外渡航などでちょっと観られなかったから仕方ないか.仕事でマンハッタン転勤を待つのみ.

2009/12/28

A Chorus Line (1985)

コーラスライン [DVD]
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 ブロードウェイミュージカルの「コーラスライン」を映画化した作品.何しろブロードウェイの端役オーディションそのものが物語になっているので,見方によっては物凄く退屈なストーリーなのだけれど,音楽とダンスがとても心地いいので飽きがこない.

 キャラクターの個性は光っているけれど,設定上仕方ないとはいえ衣装や歌っていない人達の扱いの面で残念な点も多い.せっかく映画にしたのに,ほかの受験者たちがただ棒立ちしているシーンは見ていて興ざめしてしまうことも.
 逆に,各シーンでセンターを取っている人達は,歌もダンスも流石プロ.そして,この映画の一番の見どころは何といってもラストシーン.「ONE」のリズムに合わせてどんどん増えていくキャストたちとその見事にシンクロしたダンスは一気に気持ちを高ぶらせる.

2009/12/27

Les misérables

  • Les misérables(レ・ミゼラブル)
  • 東宝ミュージカル
  • 帝国劇場
 秋に東京で観た凱旋公演.ちょっとお忍びで出掛けてきたので,日程は秘密.公演の最中にちょっとしたトラブルはあったものの,映画とは違った趣が楽しめて大満足だった.

 特に,テナルディエの存在は映画と違って新鮮で,バルジャンとジャベールの関係をより一層際立たせるいい緩衝役になっている.原作の方もしっかり読み込んでみると,こういう面白さがもっとわかるのかもしれないなと思った.あとは,予習としてミュージカルのCDはレンタルして聴いてきていたので,そちらを余裕を持って堪能できたのも良かった.

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 この日のバルジャン役は別所哲也さん.うん,やっぱり舞台やってる俳優さんは違うな.映画俳優,舞台俳優,それぞれ舞台設定や脚本の作り方,演技の魅せ方なんかが特殊だから,多彩な場面で場数を踏んでいる役者さんは味があっていい.
 広く深く,が一番だ.ビジネスマンでも,多くの部署で多くの経験を積んだ上で,なおかつ一つプロフェッショナルなスキルを持っている,というのが一番強いのと同じだ.

 今年のHPは既に閉鎖されていて,来年の公演のオーディションの募集要項が.カッコいい.来年の春なら気軽に観にいけるので再来を楽しみに待とう.それまでに原作を読破すべし.

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 ちなみに,あとで聞いた話では,この日劇場には折笠富美子さんや豊口めぐみさんが観に来ていたという情報も…….気付かなかった自分をぶっ飛ばしてやりたい.いや,席のグレードが違ったんでしょう.

2009/12/25

Les misérables (1998)

レ・ミゼラブル [DVD]
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ソニー・ピクチャーズエンタテインメント (2009-09-02)
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 Victor Hugoの名作『Les misérables』を,Liam Neeson,Geoffrey Rush,Uma Thurman,Claire Danesという顔ぶれで映画化した作品.Claire Danesがやや小生意気でミスキャストだった気がしないでもないが,少ない時間の中でよく描いたものだと思う.

 といいつつ,実は原作(邦訳版)は秋に読み始めたばかりで今はまだ序盤で停滞中.映画を観てから原作を読み始めたのだが,映画でスポットの当たらなかった細かい場面やストーリーも多いので,時間が取れるようになったら一気に読んでしまいたい.

 さて,こちら,原作を読んでいなかったということもあって,物足りなさも感じず結構面白く観られた映画だ.舞台設計や映像,音楽も惹きつけるものがあって,(やっぱり原作を読んでいないから何ともいえないが)作品のテーマも輪郭がハッキリしていたんじゃないだろうか.
 特に,Geoffrey Rushの熱演がいい.法の番人として厳格な性格を持ちながらも,ヴァルジャンとの関わりの中でその不完全性と葛藤に気付いていく過程がとてもいい.

 一方で,時間が短い,物足りない,といった声があるのも知っていたのだが,後日,舞台版を観てみて,ああなるほど,と思った部分もある.もっとも,舞台版も結局は不完全なのだが.変なCGや小細工がいらないだけに,前後編に分けて,ヴァルジャンが市長になる過程だとか,コゼットとマリユスのエピローグだとかまで描けたら,より濃密な人間ドラマになったかも知れない.その辺は原作に期待ということで.

2009/12/24

Friends season 3

フレンズ III 〈サード・シーズン〉 DVDセット1 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-05-08)
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 3rdシーズンは一番最後に観たのだが,最終話がTo be continuedだった以外は安定的に面白かった.たぶん,前後編に分かれて続くような長めの話が少なかったり,過去のレビュー回が少なかったりしたからだと思う.

 ほかのシーズン以上に恋愛がらみの話が多いが,登場する相手役がみんなそれなりに個性的で愛らしい人たちだったのも良かった.特に,Joeyに関してはKateとの話が全シーズン通じて唯一印象的だったと思う.
 ラストシーズンでの最終回につながるRachelの輝かしいキャリアのスタートも,ほんの偶然がきっかけだったとは思わず,ビックリ.喫茶店で声をかけられたところから,ブルーミングデールズ,ラルフローレン,グッチ,ルイヴィトンと声が掛かっていくんだからスゴい.つかんだチャンスを確実に活かす,社会人のお手本.

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 あと,最初に見たときに比べると,最後にこのシーズンを観たころには流石に英語耳も鍛えられていたと思う.TOEICの最新スコアは一応750を超えたが,文法とか語彙とかをキチンと再整理してから臨めばまだまだ伸びそう.それこそ,一般語彙や文法なんて大学受験以来衰える一方だったし.

 え?クリスマス?これから研究集会&共同研究ですが何か?

2009/12/23

Friends season 8

フレンズVIII〈エイト〉 セット1 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-05-08)
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 Rachelの妊娠から出産までを描くシーズン.ChandlerとMonicaは結婚し,Rachelは出産を控えながらも着々とキャリアを積んでいく.個人個人ではそれぞれ人生が動いているのだけれど,仲間たちの間柄は変わらず続いていく.こういう付き合い方も,一つの理想だなと思う.

 このシーズンで一番期待してしまったのは,Brad Pittのゲスト出演回.Jennifer Anistonと犬猿の仲だった元同級生,という設定が笑える.ああ,この二人ほんといいコンビなんだけどな.Angelina Jolieの魅力がイマイチわからないし.

 Chandlerは相変わらずかわいすぎ.あのキャラクターこそ,何というか,自分の手本にすべきキャラクターだと思う.こころなしかジョークにも冴えが増した気がする.

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 「Friends」のDVDボックスが新たに発売されるので,欲しいなと思っていたのだが,アメリカから逆輸入すると格安で手に入りそうなので,卒業する前に余裕があったら手配しようと思う.日本語字幕は出ないけれど,このドラマを一周すると確実に耳は鍛えられていて,多分,字幕無しでも十分笑えると思う.

2009/12/22

24 -TWENTY FOUR- season VII

24 -TWENTY FOUR- シーズンVII DVDボックス
20世紀フォックス (2009-12-18)
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 「24 -TWENTY FOUR-」の最新シーズン.日本ではつい今月このシーズンのDVDリリースが完結したばかりだが,自分は夏に機会があって英語版をすべて見終えていた.ちなみに,「24」を英語でちゃんと見たのは初めてだったのだが,このドラマに限っては日本語吹き替えの方が圧倒的に迫力があると思った.

 ストーリーは流石に無理が出てきた.最初の設定として,死んだはずのTonyが生きていた,というだけで視聴者おいてけぼり状態なのだから仕方ない.視聴者をアッと驚かせる意外な展開も少ないし,これといった大きな山場も無い.技術屋をわくわくさせる面白い新技術があるわけでもないし,むしろ挿入しているCGの出来すら,自分がCG処理した方がまだましなんじゃないかというレベル.Robert Carlyleの出ていた“Redemption”とのリンクがもう少しあっても良かったとも思う.

 一方,役者陣には(相変わらずレギュラー級のキャストがバッタバッタ死んでいくが)FBIの新しい顔ぶれが加わり,特にJackのスーパー拷問に負けを取らないReneeのサディスティックなキャラクターは,ラストと言われる次のシーズンに期待をつながせる.

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 あと,英語版を見て思ったのは,このドラマの脚本,意外と言葉が汚い.アメリカ英語とイギリス英語の違い,と言ってしまえばそうなのだが(もともと,欧州の下流階級の人達がアメリカ開拓時代に移住した歴史があるので,アメリカ英語は語彙に乏しく,いわゆる英熟語の多くはそういう背景から生まれたものでもある),政府職員はおろか大統領まで,BitchとFuckのオンパレード.どこのTarantinoだ.アメリカの文化水準を見誤ってしまいそう.

 「24」は,小山力也の厚みのある声がいい.声の質だけじゃなくて,単純にKiefer Sutherlandより台詞回しも上手いと思う.

2009/12/21

Movie of the Year 2009

 今年は本当に映画をたくさん見た.一年分で,これまで人生で観た映画の本数を軽く超えてしまっていると思う.そんな映画たちの中で,印象深かったものを書きとめておこう.客観的な評価は抜きにして,自分の好き嫌いでチョイスをしている.

【Movie of the Year 2009】

ビフォア・サンセット [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2009-07-22)
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 文句なしの2009年第一位.というか,最早いまのところ観たすべての映画の中でも一番好き.「Before Sunrise」の続編なので,前作を観たあとで観て欲しい映画だが,前作よりも脚本のセンス,演出,カメラ,演技などすべての面で更に上をいっている.今年,DVDを買って5回くらいは観た.

 旅先で偶然出会った二人が,9年ぶりに再開するストーリー.ラブストーリーであり,ドキュメンタリーであり,ヒューマンドラマであり,様々な観点から魅力をすくい取れる傑作といっていい.

 深く考えずにフィーリングだけで観ても物凄く心地いい映画だけれど,細かいところのセンスの良さを見逃してしまうのももったいない.例えば,リアルタイムで進む演出だとか,パリの魅力をグッと凝縮したようなロケーション,陽の光さえ操っているようなカメラワーク,などがそれだ.映画はほぼ二人の会話だけで進んでいくが,その脚本を彩る風景や光は,まるで見知った街を走るマラソンランナーの映像のごとく,全く飽きを感じさせない.

 そして,何より光るのは脚本だ.何かテーマがあるわけではなく,9年ぶりに再会した二人が限られた時間の中でするにはあまりに空っぽな会話に見えるのだが,実際のところは物凄くリアルで濃密な脚本が練られている.最初は本音を隠しながらも少しずつ探りを入れていく繊細な駆け引きと,徐々に心を許していく心境の変化が,見事というよりほかない.会話の内容は,感性と知性をふんだんに盛り込んだとてもインテレクチュアルな鋭さを感じさせる.
 この映画(前作も含めて)の脚本は,まるで何も知らない普通の人が,先人の発見した人類の叡智にノーヒントで辿り着くような思考の斬新さや感覚の広さを持っている.知識や経験の確認にとどまらず,「この人たちがこういうジャンルで活躍したら面白いだろうな」という芽をたくさん垣間見られる.

 この映画,演出や脚本にEthan HawkeとJulie Delpyも参加しているらしい.この二人のセンスには脱帽だ.前作も脚本はとても良かったけれど,こちらは更に洗練されて(ある部分では意図的に怠惰にもなって)より一層味わい深いものになっている.古典的な戯曲の方法を,映画で現代的によみがえらせることに成功した作品.

 少し余計な話だが,年明け2月に,オーストリアのウィーンを再訪することになった.ウィーンの名所はある程度散策しつくしているので,余裕があったら,前作「Before Sunrise」のロケ地巡りをしたいなと思っている.

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【Top 10 Movies 2009】

 主観でチョイス.今年新たに観た約200本の洋画・邦画の中から10本を選んだ.順番はアルファベット順.客観的な評価を加味したら,もっと別の作品が入る.それこそ,アカデミー作品賞の映画だけで30本以上観ているはずだし.
 もう少し,華のある映画をチョイスしてもよかったのだけれど,それも面白くないので.Hitchcockをもっと圧し出しても良かったのだが,この辺はもう少し多く作品を観てからがいいというのもあって敬遠しておいた.
 邦画では本当なら,「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を入れる予定だったけれど,あえて「サマーウォーズ」にした.「サマーウォーズ」はキャスティングが絶望的なまでにダメだったので客観的に比較したら断然エヴァの方が上だけれど,やっぱりテーマやモチーフを考えたらサマウォの方が温かくていい.

 うーん,今ひとつパッとしない.いわゆる名作をあさって来たことを考えれば,ベスト30くらいをチョイスしないと少な過ぎるかもしれない.

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【Worst 3 2009】

 邦画ははずれたら物凄いはずれっぷりになるから怖い.洋画の場合(洋楽でもそうだが),めぐりめぐって日本まで届くまでにある程度よくないものがそがれて洗練されるプロセスがあるから,好きじゃなくてもファンがいることに納得のいくものが多いのだ.
 アマルフィは,きれいだったけれども,映画にする意図がわからないし,Sarah BrightmanのPVにしかみえない.テレビの特別番組として放送するなら面白かったと思う.

2009/12/20

Waltz with Bashir (2008)

 公開前から楽しみにしていたイスラエルのアニメ映画.今年映画館で観る最後の映画だと思う.年末に少し余裕があったとしても,ほかならぬこの映画をもう一度観に行くに違いない.歴代の名作を観るに観続けた一年の映画たちの中でも,ベスト10には入る.「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」,「サマーウォーズ」という今年の超傑作の更に上をいく.

 まず,アニメ映画といってもいわゆるジャパニメーションとは全く異質のものであることを断っておこう.この映画は,レバノン侵攻を経験した映像作家の,PTSDとフラッシュバックのドキュメンタリーを,アニメ化したものだ.何しろ,まずドキュメンタリーを撮影した後で,アニメを上乗せしたというくらいで,登場人物はもちろん,その声を充てている声優陣までノンフィクションという異色のアニメ映画である.

 今年のアカデミー賞外国語映画部門にノミネートされるも,惜しくも「おくりびと」に敗れた作品としても話題になった(日本では「おくりびと」の受賞しか騒がれなかったが).日本公開は今秋で,地元では今週末から公開開始.本当なら大阪か東京でもっと早く観ても良かったのだけれど,忙しくて時間がとれず,近場での公開を待っての鑑賞となった.

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 ストーリーは,イスラエル軍として侵攻にかかわった映像作家(この映画の監督・本人役)が心のうちに閉じ込めた記憶の存在にきづき,過去の仲間たちを訪ねることで真実の記憶に迫るかたちで進んでいく.
 記憶とは実にあいまいで,忘却と同時に都合よく塗り替えられていくものだが,ことに戦争の記憶は無意識の闇に幽閉してしまうほどに人々の心をむしばむものらしい.それをあえて心理学的に掘り起こしていくことで見えてくる真実の記憶と,「サブラ・シャティーラ大虐殺」の惨劇が,この映画の向かう終着点だ.

 歴史は勝者によってつくられる,とはいったものだが,他人から圧しつけられる歴史ではなく,主観である記憶すらも簡単にねつ造されてしまう危うさを,この映画を通じて戒めさせられる.逆にこの映画は,そうした歴史や記憶に対する痛烈な皮肉を含んでいるといっていい.

 戦争の記憶に迫るプロセスを単なるインタビュー映像でまとめたら,映画としては却ってつまらないものになりかねないところを,あえてアニメ化することで強烈なインパクトとメリハリを添えて脳裏に焼きつかせている.また,確証のない記憶を再現する意味でもアニメーションという手法は効果的だ.そして,半ばフィクションに錯覚してしまいそうなラストで,虐殺の実写映像に切り替える斬新さ.ジャパニメーションならば失格のこの演出も,この映画に関しては完璧といっていいほど成功している.

 脚本,演出,音楽ともに圧巻.強いていえばアニメーションの技術としては日本のそれに到底匹敵しないが,FLASHなどの古典的なフォーマットを使っているのも意図してのことだと思う.

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 一方で,この映画の政治的,歴史的な意義も大きい.第二次大戦で虐殺の被害者だったユダヤ人たちの非情な虐殺劇に迫っているという意味でもそうだし,何より,この映画がほかでもないイスラエルで製作,そして公開されたという意味ははかり知れない.

 歴史の勝者であるはずのイスラエルが,レバノン侵攻における虐殺劇を真実として受け入れる誠実さ.それは敗者であるドイツがナチスドイツの非を受け入れるのとはたぶん,政治的,歴史的な重みがまるで違う.そういった政治や歴史の駆け引きや戦略には正直あまり興味も無いのだけれど(人並みに勉強はしていると思うが),日本の南京大虐殺や,アメリカの原爆投下などを考える材料にもなりそうだ.

 一つだけ残念なのは,こうしたイスラエル軍の非道な歴史も,あくまで軍の命令に従っただけだいう責任転嫁の念が全体的に感じられることと,レバノン軍団と虐殺された一般市民があくまで敵として描かれているだけで背景や不条理性などが見えにくくなっていることか.

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 そして.

 大戦やベトナム戦争の映画と違って,年代的にも題材的にも遥かにリアルな映画だが,かりそめの平和に逃げているこの国からでは何一つ苦しみを共有できないことが,偽善の自覚をよりいっそう強める.

 本当の平和とは何か.

2009/12/19

The Sixth Sense (1999)

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 観たのが公開から10年も経っていると,具体的な内容は知らなくともこの作品が“ラスト”で知られていることくらいはどうしても耳に入る.そういう予備知識がなかったらもっと楽しめたかも知れない.

 死んだ人間が見える少年と,心理学者との物語.たぶん,全国的にも相当ブームになった作品だと思うので,そこそこ映画好きの人なら大抵観ている作品なのだと思う(そういう意味合いもあって手をつけた).死体や幽霊は出番も少なく演出もやや安っぽい感じがあったけれども,作品全体としては物凄く丁寧に作られたいい映画だったと思う.いわゆるホラー映画とは少しベクトルが違って,中学生の頃,邦画の「リング」を一人で観ていて途中で断念したチキンな自分でもノンストップで観られる安心感と温かさがある.

 最後の大逆転ラストシーンをめぐる伏線に関しては,ご都合主義,みたいな意見もあるんじゃないかと思うのだが,実際のところは少年の方こそ他人に多くを語りたくない事情を抱えていたのだから,この点は設定的にも全く無理は感じられない.
 一方で,母親とはもう少し早く分かりあえたはずなのにな,という気持ちはないでもない.

2009/12/18

The Exorcist (1973)

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ワーナー・ホーム・ビデオ (2009-07-08)
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 ホラー映画の代表格.ホラーが苦手(観たいには観たい)な自分でも観られるレベル.ホラー映画はもともとそれ程映画を見ていたわけではない自分が更に敬遠してきたジャンルなので,のりしろは大いにある.少しずつホラーへの耐性も鍛えていきたいのだが…….

 こちら,35年も前の作品にはとても見えない.映像技術の点でも,下手なCGでごまかすより断然味があっていい.いろいろ暗示的な脚本も効果絶大だ.ただ一方で,キリスト教文化に疎い日本人の自分には少しピンとこないところもないではなかったかも知れない.

 あとは,この作品はホラーというよりオカルト映画といった方がいい.それこそ,キリスト教圏ではこの手の信仰は現実の歴史として登場するわけだし,雰囲気や世界観でいってもほかのホラー映画よりは「Indiana Jones」シリーズに近いものを感じる.ホラーとは裏腹に「Indiana Jones」シリーズは一番最初に好きになり始めた映画シリーズ(幼稚園だか小学生だかの頃)の一つだと思うので,愛着もわく.

2009/12/17

Million Dollar Baby (2004)

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 Clint Eastwood監督のアカデミー賞作品.今年観た映画の中ではベスト5に入るくらい好き.Eastwood,昔は何とも思っていなかったけれども,今年一年でイメージが激変した(特に監督として).今ではSpielbergよりは断然好きだ.

 この作品には,尊厳死を扱っているだとか,「Rocky(ロッキー)」と重なる部分があったりだとかで賛否両論があるらしい.個人的には,尊厳死の問題にあまり抵抗も持っていないし,観たのは「Rocky」より前だったのでそのあたりも気にならなかった.

 そもそも,この映画の何が良かったかというと,一番最後の台詞一言なのだ.

 脚本も,演出も,さすがに凝っていて良かったけれども,物語中盤からアレコレ落としどころが気になり始めた伏線を,最後の最後で一番きれいな形が回収してくれるこの爽快感.予想出来ないラストシーンではないかも知れない(自分はそのとき予想は出来なかった)けれど,膨らんだ期待を裏切らないラストシーンだ.
 手法としては,「The Shawshank Redemption(ショーシャンクの空に)」に通じるような部分を感じた(目的やストーリー性や全く違うが).もっとも,「Million Dollar Baby」の方がギリギリまでためにためて最後の一言で落とすという開放感があってその点はいい.

 映画とか小説とかじゃなくてもいいから,日常の小話でもこういう機転の利いた話術を持った人でありたいと思う.

2009/12/16

Person of the Year 2009

 今年影響を受けた人達を思い返してみると著名人よりもむしろ一般人(といっても本を書いているような人もいるのだが)の方が存在感があったりするのだけれど,ここでは著名人の中から選ぶことにしよう.

【Person of the Year 2009】

  • 折笠富美子
【候補】
  • オノナツメ
  • 折笠富美子
  • 平田オリザ
  • 本田宗一郎
  • Clint Eastwood
  • 同期入社ドリームチーム
 研究,進路,趣味,人間関係,といったあらゆる面での転機は,元をたどればこの人に行きつく,ということで,今年のPerson of the Yearは折笠富美子さん.

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 元々,折笠さんは好きな俳優さんの一人で,歌手としてもiPodに入れているくらいには聴いていたから,就職活動で東京に行くついでに出演する舞台を観て帰ろう,と思ったのも気まぐれというわけではない.ちょうどその日は,大手メーカーの研究所に見学に行っていて,散々感化されたあとだったし,この舞台を観る直前までは,就職活動で自分がマスコミやエンタメに手を広げる事になるなんて一ミリも思っていなかった.

 ところが,どうだ.
 演目そのものは決して面白い作品だったわけではなかったけれど,この臨場感だ.久々の舞台とはいえ,画面やイヤフォンを通してでははかり切れない圧倒的な存在感と迫力があった.


 そうだ,俺,こういうの好きだったんだっけ.自由に創って,自由に磨き上げる.演じる側も,観る側も,損するところがほとんど無い.そういう足し算的な世界だ.一方で,ところどころ目立つ空席.まだまだ足し算に余地はありそうだ.

 もともと,「技術で勝てなくなった日本の活路は芸術とサブカルチャーしかない」というのが長いこと持論だったから,不安と可能性を感じずにはいられなかった.帰りのバスの中で,自分がこういう世界に携わる方法とか,アートを一大産業として売り出すアイディアとか,そのための数理モデルとか,一晩中考えた挙句,翌日の朝一番でエンタメ系企業のリクルーティングに登録していた.こうした目標を達成するモデルを一つつくりあげ,結局,本命にしていたこの企業からもうちうちに嬉しい声もかけて貰ったものの,思うところあって自分の専門分野に近いところに進路は選んだのだが,この舞台をきっかけに,自分の就職活動はもはや芸術鑑賞会に一転し,最高のエンタメバケーションになった.今に続く数々の出逢いに恵まれ,長らく遠のいていたアートな趣味も今ではすっかり取り戻してしまった.

 研究,という面では,時間軸が戻るけれども,折笠さん出演ということで見始めた「電脳コイル」がいまの研究テーマの最初のモチベーションになっているし,人間関係の一つでは,ライブイベントを観に東京に帰ったときに思わぬ再会に恵まれたりもした.実際,自分が映画を本格的に見始めたきっかけはここにあったりもする.

 そんな話.

 来年も応援してます!

2009/12/15

ONE PIECE FILM Strong World (2009)

 『ONE PIECE』の劇場版最新作.今年は尾田栄一郎が初の総指揮,しかも何やら面白そうなにおいが週刊連載の方でプンプンただよい,極めつけに先着150万人限定で「単行本0巻」が貰える.これは行かないわけにはいかないと,公開初日の朝一番で観てきた.『ONE PIECE』映画を劇場で観るのは初めて.映画館では空席も目立ってはいたが,東京で観た知り合いの中には当日並んでも観られなかったという人も.東京と関西で相変わらずサブカルの温度差が凄いが,今回はそれに助けられた.

 さて…….

 今年のワースト映画の一角に決定.

 最近の原作とのリンクから,政治色たっぷりのアダルトな内容を期待していたのに,今までの映画と変わらないじゃん.むしろ,前の映画の方が面白いのあったよね.自分が『ONE PIECE』に期待しているのは戦闘シーンや細かいギャグなんかじゃなくて,世界史や政治に対する隠れた皮肉と,夢や希望に対する痛烈なメッセージだったりする部分が大きいので,勧善懲悪,お涙ちょうだいのお子様ストーリーには正直ガッカリさせられた.むしろ,原作の方の尾田栄一郎の意図も買いかぶり過ぎているんじゃないかと思わされたくらい.

 期待しすぎたかな.例年の映画と同じノリで観に行ったらそこそこ楽しめたんだろうけれど.一方で,この映画に対する絶賛の声が大き過ぎるのもちょっと心配.なぜなら,ジャンプ編集部は読者のニーズに安直に応えてしまうから.原作の方まで軌道がずれてしまわないことを願う.

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 あらためて,『名探偵コナン』の劇場版のスペックの高さに感心させられた.

2009/12/14

The Great Dictator (1940)

独裁者 [DVD]
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 ナチスドイツ関係の映画シリーズ,最後はこの映画と決めていた.Chaplinの映画の中では一番最初に観た映画だが,作品の質そのものもさることながら,時代背景やメッセージ性を考えてもナチスドイツをモチーフにした映画の中では最高峰の作品だと思う.

 序盤から落ちは見え見えだ.クライマックスで迎えるChaplinらしからぬ強烈な演説にはある意味予想を裏切られるが,膨らんだ期待まで決して裏切らない.そこに至るまでのコミカルな展開や脚本も見どころ満載だが,ラスト10分間でこの映画のコメディ要素は一切払拭されてしまう.

 この演説の好きなところは,資本主義を絶賛するでもなく,社会主義を批判するでもなく,ただただ人間の話をしている点だ.むしろ,資本主義に批判的な部分もあれば,社会主義に同調的な部分もある.自分が持論にしている理想論とも大きくオーバーラップするものであり,70年の年月を経てなお色褪せない名言だ.政治についてあれこれ語るのが幼稚で,バカらしく思えてくる.

 “主義”とは,社会が基礎とする原理だ.そこをはきちがえている人は結構多いと思う.極論を言えば,“資本”主義では資本(お金=生産)のためならいかなる不条理も許されるのであり,“社会”主義では社会のためならいかなる不条理も許されるのである.そういう前提条件にある資本主義を,あるいは社会主義を,ただただ空気のように当たり前のものとして受け入れてしまっている今の時代に違和感を感じざるを得ない.言葉の意味を深く考えないで,おぼろげなままに軽々しくこの言葉を口にしてはいないだろうか.

 Chaplinがこの映画の演説でといているのは,いってみれば「人間主義」とか「平和主義」である.資本主義でも社会主義でも正直どちらでもいい.それ以前に見直す部分がある.主義的な闘いから時代と距離を置いている今の時代だからこそ.
 これまでの人間の歴史の中で,この「人間主義」の役割を担っていたのは宗教だっただろう.だが科学が宗教の“ウソ”を見抜いてしまったために,人々は人間主義を見失ってしまったといっていい.

 現代社会のゆがみは.崩壊は.

 宗教がうしなわれたためではない.科学が台頭したためでもない.宗教が担っていた“本質”の方がゆらいでしまったからだ.ならば新しい土台を見つけなければならない.そのヒントは,例えばChaplinの演説の中に隠されているように思う.

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 映画を作った当時,Chaplinはホロコーストの惨劇を知らなかったとのことだ(そもそも強制収容所内での諸々の歴史は戦後に明らかになって来たものも多い).そもそも,悪名高いアウシュビッツ強制収容所が建設されたのはこの映画の公開年と同じ1940年のことで,製作自体はその前年におこなわれていたとされる.一方で,アメリカが世界大戦に参戦するのはまだもう少し先の時代だ.
 そういう奇跡的な時代背景に恵まれて,この映画を世に送り出すチャンスに恵まれたChaplinと,そのチャンスを逃さなかった彼の才能は,まさに歴史的な天命を感じさせる.

2009/12/13

The Pianist (2002)

戦場のピアニスト [DVD]
アミューズソフトエンタテインメント (2003-08-22)
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 ホロコースト下のユダヤ人ピアニストのノンフィクション映画.もう何年も前に見ていたはずなのに,今年あらためて見たら全く印象が違ったのは,原作に関するエピソードを知ったからだろうか.

 まず映画の前に,この原作に関して耳にしたエピソードを書きとめておこう.この本が出版されたのは戦後直後の1946年だが,日の目をみるまでに50年以上の時を要している.というのも,この物語の中でドイツ兵が主人公を助けるシーンがあったためだ.妥協して兵士がオーストリア人として描かれるも受け入れられず,本国ポーランドでは長きにわたって絶版処分を受けた問題作だったそうである.

 いまの価値観からすれば,第二次世界大戦(特に悲惨な歴史のあるゲルマン圏の戦史)において,救われる思いのする物語である.もちろん,(原作の邦訳は読んでいないが)主人公がピアニストだったからこそのストーリーではあるにしても,むごすぎる歴史の一ページに射す一筋の光といっていい.芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に似て,人間の理性を信じられる希望を与えてくれる.

 にもかかわらず,この作品がつい最近まで世界的な日の目を見なかったということは,世界が大戦を負の歴史として省みていなかった証でもある(ポーランドにおける冷戦の歴史も加味すべきではあるが).
 敵国の慈愛を隠すという目的だけのために.まして,隣人愛を説くキリスト教圏で.

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 さて,映画に関してだが,淡々とストーリーが進むわりに感じるものはとても大きい.

 一つには,ユダヤ人の虐殺といったホロコーストの悲劇を直接的に描いていないためだと思う.知らない人が見ればそれでおしまいだが,知っている人が見れば,見えない惨劇は何倍にもなって想像をかきたてる.言葉は軽いが,「チラリズム」が見事に活きて物語全体にリアリティを漂わせている.

 そして一つには,上述したドイツ兵とのシーンがあるからだ.ホロコーストの絶望的な環境下にあって,まして敵も味方も無いような状況をくぐり抜けてきた主人公Szpilmanにとって,このドイツ兵とのシーンはあまりに温かく,慈悲深い.強いていえば,山場のこのシーンのあとのやり取りがもう少し比喩的に描かれていたら個人的にはニヤリだったかも知れないが,そこは映画を撮ったことのない自分がアレコレいえるほど簡単なものじゃないだろう.

 脚本やストーリーもよく練られているし,音楽もさすがに凝っている(ように思う).映像にも妥協がないし,ホロコースト関係の映画の中では,かなり秀逸な作品だと思う.優等生すぎて,逆に少しクセが欲しいくらいだ.

2009/12/12

Germania anno zero (1948)

ドイツ零年 [DVD]
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アイ・ヴィ・シー (2009-02-20)
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 戦争とそこで生まれたイデオロギーが,人の精神を蝕んでいく過程を淡々と,しかしリアルに描いたイタリア映画.戦後まもない1947年にベルリンで実際に撮影されたということもあって,ドキュメンタリーとしての価値もある.ただ,微妙にドイツ語が分かるだけに,イタリア語(ときたまフランス語?)で進むドイツの風景に違和感を感じざるを得ない.

 戦争の終焉とともにドイツにおける思想は一転した.ファシストたちはみな社会を追われ,あるものは罰せられ,あるものは逃亡生活を余儀なくされた.物語の主役は,追及の手から逃れ続ける元ナチ党員の兄を持つ少年である.
 戦争は終わった.しかし,思想と困窮は容赦なく少年の心をむしばんでいく.短い映画ではあるけれども,当時のベルリンの風景と相まってリアリティに事欠かない作品だ.

 戦争映画,とみなされがちなようだが,この映画は戦争映画ではない.思想映画,とでもいうべきだろうか.Hitlerという大物によって代弁されてしまいがちなナチスの思想.そういう典型的なイメージによって逆に見えにくくなってしまった思想の影の部分を描いているといっていい.
 ナチスとして戦争に加担していながら,あまりに軟弱で臆病な兄.ナチの思想の“本質”をいまなお抱き続ける教師.そうした環境下で,Hitler亡きドイツでまた新たにナチ思想に傾倒していく少年と,その末路.「戦争」と「Hitler」が見えなくしてしまった思想の本質を垣間見せてくれる.

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 思想や社会,あるいは科学がむしばんでいく人間の様相は,心理学的な面白さもあって小説や映画の題材としてもポピュラーなものだ.今年観た中で印象的なものでは,例えばRobert De Niro主演の「Taxi Driver(タクシードライバー)」や,Michel Houellebecq原作の「Elementarteilchen(素粒子)」があった.前者は精神的に病んだ主人公が皮肉にも社会的ヒーローにまつりあげられるアメリカの歪みを,後者はますます社会から切り離された人間が再発見する原点の愛の形を描いたもので,どちらもいい映画だった.

 この映画は,こうしたテーマ性やストーリー性よりは,やはりリアリティやドキュメンタリーが主題になっていて,印象には残るけれども,もう一度見たい名作にはなり得ないと思う.ついでに,まともに世界大戦を勉強していれば,これくらいの風景には意外性や異常性は感じないだろう.

2009/12/11

La vita è bella (1997)

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]
角川エンタテインメント (2009-11-20)
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 第二次世界大戦中のユダヤ系イタリア人一家のイタリア映画.ホロコーストによって収容所での生活を余儀なくされた親子の,確固たる家族愛が描かれている.

 コメディタッチなので,細かい描写や設定に関しては突っ込まないことにして,この映画で大絶賛されているコンセプトについて.

 収容所という絶望的な環境下にありながら戦争の非情さを親だけが抱え込み,子どもには一切の悲劇を隠し続ける徹底した愛情がモチーフとなっている.
 いってみれば,“見ざる,言わざる,聞かざる”と同じで,子どもの見なくていいものは見せてはいけない,という,家族愛というよりは世代愛とか,教育に関するコンセプトに近いように思われる(実際,父親の方針に収容所の同僚たちも賛同していたわけだ)のだけれど,個人的に,こういう価値基準のおしつけってどうなのかなと思う.

 もちろん,そういう部分も必要だ.子どもには,悲劇より先に知るべき美しき世界がたくさんあるし,同じものを見せて育てるなら希望をはぐくみたい.しかし,戦時下でのこの映画で描かれるほどに徹底した囲い込みは,かえって子どもをさげすんでいるようにさえ見える.

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 “見ざる,言わざる,聞かざる”の教育方針の根底には,子どもに善し悪しの判断能力や判断基準がないから,という決めつけが隠れている.それは実際にそうだと思うし,この方針にも同意する部分は大きいけれど,ならば,例えばなぜ算数は教えていいのか.理科は教えていいのか.小学校や中学校で教えられている算数や理科も,実は「ウソ」だったりするわけで,そのウソは学問の道の途中で,それぞれ代数学や相対論によって「修正」されていく.

 だったらなぜ,戦争の惨劇や人間の醜さは「修正」を許されないのか.結局,“見ざる,言わざる,聞かざる”の方針はあってもよいけれど,何に対してそうするべきかは,突き詰めればエゴや偏見でしかないように思えるのだ.

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 この映画の中で描かれるのは,一つの家族の“何に対してそうするべきか”の価値基準なので,映画そのものに否定的なことはいわないけれど,むしろこの映画を絶賛する声が世界的にあまりに多いのが気持ち悪くて仕方ない.皮肉っぽいけれど,現実社会でのこういう教育の姿勢が,この映画に対する批判の可能性まで殺してしまっているじゃないか!

 なんか極論みたいなことをツラツラ書いてしまったけれど,もちろん自分自身,その辺のバランスが一番大事だと思っているので,この先子育てをする機会があればやっぱり自分のエゴをある程度押し付けてしまうのだと思う.

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 さて,肝心の映画に関して,コンセプトに関しては自分自身は,賛同する部分もアリ,否定的な部分もアリだ.
 この映画で一番残念なのは,収容所ゲームの景品が「戦車」であること.せっかく戦争の惨劇を見せないようにしていたのに,その報酬が戦車とは何ごとか.この部分までコメディタッチに描いてくれていたならそれはそれでわかる人にだけわかる痛烈な皮肉になっていて面白いのだけれど,残念ながらそういう遊びごころはなさそうだ.

 一方,この映画で素晴らしかったのは,戦争色のない前半の物語と,息子のJoshuaの表情の豊かさ.この映画,中盤まではイタリアの名作「Nuovo Cinema Paradiso(ニュー・シネマ・パラダイス)」に勝るとも劣らない雰囲気.音楽も映像も,ずば抜けていい.後半の収容所の物語では,Joshuaの演技力が光る.パッケージにも描かれていることの多い本物の戦車が登場したときのJoshuaの表情なんか,こっちまで嬉しくなってしまう.

2009/12/06

The Grey Zone (2001)

灰の記憶 [DVD]
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ハピネット・ピクチャーズ (2003-10-24)
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 アウシュビッツ強制収容所におけるユダヤ人たちのストーリー.この映画を最初に見たのはもう5年も前になるが,自分の中でかなり上位の戦争ドラマ(よくよく振り返れば,自分の戦争映画の視聴率は異常に高かった).

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 V.E.Franklの『Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager(夜と霧)』は,アンネの日記以上に世界的に評価の高いホロコーストの心理学的評論だ.この本はドイツ語版の原作を学部時代に読んだ.当時は文法を追うだけで精一杯で内容を吟味するなんてとても出来なかったので,いまになって邦訳版を読み返してみている(時間がないのでチマチマ)のだが,じわじわと響く衝撃作だ.
 この評論のうったえることの一つは,ホロコーストが人種差別主義であったのが事実だとしても,アウシュビッツの中で行われていた残虐行為が必ずしも人種主義的なものではなかったということだ.延命と引き換えに同胞の殺戮に加担した狡猾なユダヤ人たちもいて,それを見て見ぬふりをしてきたユダヤ人たちがいて,そう,迫害を受けていたユダヤ人たちもまた,たちまちのうちに人間らしさを失っていったという心理学的研究録といっていい.

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 『夜と霧』に関しては後日また書き留めておくとしよう.話を映画に戻すが,この「The Grey Zone(灰の記憶)」は,こうして延命と引き換えにユダヤ人の虐殺や始末に加担したユダヤ人たちの物語である.
 極限状態において同胞を見捨ててまで生にしがみついていた男たちが,ガス室で奇跡的に生き残った少女を助けることで,生について問いなおしていく.その結末は,あまりに絶望的ではあるけれども,人種や民族という枠組みからいったん距離を置いて,人間とは何かを真摯に考えさせられる.

 しかし,この映画を半年前に見直してみて,そしていまFranklの『夜と霧』を読み返してみて,この映画に物足りなさを感じずにはいられない.

 この映画に登場する男たちはみな,同胞の虐殺や死体処理に加担してはいたけれども,決して尊厳を捨ててはいなかったからだ.物語冒頭で同僚を殺した男もまた,同僚の尊厳死という明白な意図を持っていたことが物語後半で明かされる.物語の中心的話題である,焼却場の爆破計画にいたっては,もはや迫害の象徴的存在を打ち壊すという民族的誇りに満ち溢れている.そう思うと,結局,少女の存在はこの物語において,男たちにあまり大きな変化をもたらしていないように見えてしまう.

 より残酷にはなるだろうけれど,男たちはFranklの説くような無感情状態に既に陥っていて,尊厳も誇りも何もない,そういう状態に少女が人間としての潤いを取り戻させる,といったファクターがないと,この映画の本当に訴えたかったことが却って見えにくくなってしまうのではないだろうか.

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 とはいえ,見ないでおくにはもったいない映画.世界大戦の欧州を描いた映画の中では,ナチスとユダヤ人のお決まりの構図にしばられない異色の佳作.
 “文部科学省選定”という売り文句は正直,ジャマ.あと,日本版のパッケージの美少女は誰だ.アメリカ版のパッケージと違い過ぎる.

2009/12/04

Valkyrie (2008)

ワルキューレ プレミアム・エディション [DVD]
ポニーキャニオン (2009-07-24)
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 ナチスドイツのHitler暗殺計画ワルキューレ作戦を描いた映画.春の公開初日に観に行った.ナチス関係の映画をわりと観ている気がするのは,ふるくはEinsteinの影響だ.Einsteinは,ナチスやユダヤ無しでは語れないので.

 周知の史実として失敗という結末はわかっている以上,失敗に至るプロセスをスリリングに魅せるとか,作戦にかかわる人物たちの人間模様やプライベートに光を当てるとか,そういうところにオリジナリティが活きてくると思うのだけれど,どちらかというと淡々と出来事を追っていくだけにとどまってしまっていたのは残念.作戦にまつわる細かい描写も,文献等でちょっと調べれば載っているような内容だったので,予習までして観に行った自分にはやや肩透かし.逆に,予備知識なしで観るにはややわかりづらいかも知れない.

 映画の中で唯一プライベートが描かれる主人公Stauffenberg大佐も,作戦に向かう心境とかモチベーションみたいなものが今ひとつ弱くて,代わりに根拠のない自信やリーダーとしての器の小ささばかりが目立ってしまう.また,ドイツで教えられる歴史では,Stauffenbergは気さくで明るい人物だったとされているらしいので,本作での彼の寡黙で堅実な人物像は,アメリカ人による脚色の一つといっていい.多分,「ドイツ人は真面目」という一般的な偏見がそうさせているのだけれど,ところどころに見られるお粗末な展開は,この映画での彼の人物像とは微妙にフィットしないようにも見える.

 同じHitler暗殺というモチーフでいえば,展開に難はあるとはいえ,Tarantinoの「Inglourious Basterds」の方が遥かに惹きつけるものが多くて面白い.

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 さて,Hitler暗殺未遂は一説によると40件とか50件とか起こっていたらしいのだけれど,そのモチベーションの在処は,案外,誤解されているんじゃないかと思う.当時,迫害を受けていたユダヤ人たちに報復としての暗殺を企てる余力があったとはちょっと思えないし,かといってナチス体制そのものに不満分子が多数いたようにも(表向きは)見えてこない.

 結局,戦局が不利になって弱気になったりとか,敗戦をいち早く悟って自分たちの助かる道を選んだとか,そういうネガティブなモチベーションが支配的なんじゃないかと疑ってしまう.つまり,ナチスの主義や体制に対する反乱ではなく,政局に対する反乱だったのではないかというわけだ.
 実際,この映画もそういうニュアンスはにおわせていると思うし,実際,だとすればHitler暗殺の首謀者たちを英雄視するというのもちょっと違うんじゃないかと思う.

2009/12/03

Der Untergang (2004)

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]
日活 (2006-11-10)
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 Hitlerの著作『わが闘争(Mein Kampf)』を読んだことのある人はどれくらいいるだろうか.嫌う前に知れ,というのが自分のモットーで,自分がこの本を読んだのは中学生のときのことだ.本が本だけに白い目で見られたこともあった気がするが,読んでもいない奴にとやかく言われる筋合いはないだろう.Hitlerを擁護するつもりはサラサラ無いけれども,難解なこの本を読んで当時感じたのは,「ヒトラー=ナチス=ホロコースト」という構図に対する違和感だった.

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 「Der Untergang」は独墺伊の共同制作映画で,ドイツ降伏までを描いた映画となっている.直訳でもないのに何のヒネリも無い邦題にはやや苦笑いだが,この映画,思いのほか面白い映画だった.個人的には「Schindler's List」よりも好きかも知れない.

 この映画の面白さは,歴史からは見えないHitlerやナチスの“人間らしさ”を描いているところにある.理想と現実,公と私との間で揺れ動きながらも,誇りを持って信念を貫くHitlerや幹部たちの姿は,ある意味で幕末の志士たちに通じるような気高さすら感じる.むしろ,Hitler自身の残虐さは全くといっていいほど描かれておらず,それでもなお歴史的悪人という色眼鏡が勝るのだから,Hitlerに対する世の認識がいかにどす黒いものかわかる.

 彼等が異常者ではなかったからこそ,われわれは人間の狂気の恐ろしさと虚しさを痛感させられるのだ.

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 今の価値観から見れば,ファシズムだの民族主義だのと,あまりに非人道的にうつるわけだが,歴史的背景を無視してもいけない.それこそ,今の時代の価値観が100年後に大笑いされているであろうことと同じように,Hitlerは悪意だけを持ってファシズムを進めてきたわけでもないのだ.そうした気高い理想は,Hitlerよりもむしろその側近たちを通じて強烈に描写されている.

 ナチなき世界に子どもたちを生かせない,そういって心中を決意した母親.辱めを避けるために自ら遺体の消失を願い出たものたち.一方で,裏切りや暴走によって崩壊の一途をたどる組織.こうした様々な局面を見るに,Hitlerとナチスが,同義ではないことに気付かされる.ナチスや,そしてホロコーストは,Hitlerという人物一人で語れるほど浅い負の歴史ではないのだ.

 この映画で,価値観や想いを少しずつ変えていく少年Peterは,この物語の隠れた主人公のように見える.

 弱いがゆえに群れ,ひとたび組織をなしたとき,組織に埋もれて理性を失う恐ろしさ.ナチスをめぐる悲劇は,Hitlerの狂気以上に,人々の狂気に満ちている.われわれは,Hitler一人にその責任を押し付けることで,自分たちの中に眠るその狂気から目を背けてはいないだろうか.

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 繰り返しになるが,倫理的にも政治的にもHitlerは忌むべき存在であり,肩を持つ気は全くない.しかし,この映画はそうした大物の影に隠れた歴史や,恐ろしさを,あえてHitlerの異常性を封じることで逆説的に訴えているように見える.大戦の歴史から学ぶべきことは,「Hitlerは悪いヤツ」という知識ではなくて,人間の狂気とそれに対する戒めであるべきだ.

 ただ,この映画で残念なのは,Hitlerはもちろん,ややナチスを美しく描き過ぎているところか.典型的なのは,強制収容所で人体実験等を繰り返していた医学博士Stumpfeggerがきわめて人道的な医師として描かれているところなど.この辺のバランス感覚がもうちょっと欲しかったというのは欲張りか.

2009/12/02

Schindler's List (1993)

シンドラーのリスト スペシャルエディション [DVD]
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン (2006-06-23)
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 今まであまり載せてこなかった戦争映画を取り上げていこう.まずは,Steven Spielberg監督の代表作,「Schindler's List」.就職活動にかこつけて初めて観た.Spielberg作品なのに,なんで観てなかったんだろ.

 ホロコーストをモチーフにしたアカデミー賞作品.あえてモノクロの映像にアクセント程度に色彩を織り交ぜて強烈なインパクトを与える魅せ方,ゲットー解体を中心とした残酷劇を生々しく再現した映像,一つ一つのシーンに何重にも厚みを持たせる演出と演技,ところどころで印象的に響く音楽,これらどれを取ってもさすがといった感じだ.名匠Spielberg,おさえるべきワザを知っている,とでもいうか.

 そして,何よりモノクロで古めかしさを演出したことで,この映画がホロコーストの真実として人々の脳裏により強烈に焼きつく,という功績を果たしたのも事実だろう.アカデミー賞作品であるなし,戦争映画であるなしに関係なく,この映画は色々な点で見る価値のある名作だと思う.

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 しかし.

 正直,多くの人が絶賛するほど,自分はこの映画を手放しに絶賛することは出来ない.

 ホロコーストが虚構だったとか,そういうことは思っていない(一方で,ホロコースト否認派の主張も論理的には理解できるし,彼らを論破できるだけの十分な確証は無限に追い求めるべきだとも思う).世界大戦の歴史に関しては思うところあってよく勉強している方だと思うし,昨年の欧州旅行でも少なからず大戦の傷跡は見てきたつもりだ.

 それでも.

 この映画の,ラスト1時間.あまりに物語を創作し過ぎてはいまいか.手違いでアウシュビッツに連行される女性たち.シンドラーのゼロ生産経営.工場を発つシンドラーの台詞たち.そして……やって来たソ連軍の意味深な一言.前半2時間がいい意味で強烈に心に焼きつきながら進んでいくだけに,後半の茶番ぶりが残念でならない.

 シンドラーを美化すること自体が悪いとは言わない.ただ,“ノンフィクション”として受け入れる(制作側が意図していないとしても)にはあまりにご都合主義過ぎて,偏屈な自分にはかえってこの物語すべてが虚構なんじゃないか,と錯覚させられてしまうような気がした.疑いを持たないプロパガンダのカモたちを感動させるにはこれでいいだろう.しかし,客観的かる冷静にこの作品を見つめたとき,この演出は今風に言えば“ヤラセ”にさえ見えるし,実際,シンドラーをめぐってはこの映画での美化や偽善をうったえる声も少なからずあるようだ.

 そして,極めつけは工場跡にやってきたソ連軍人の言葉.“東にも敵が多く,私なら西へは行かない”……イスラエルを露骨に示唆し過ぎている.そして続くラストシーンには,エルサレムのシンドラー墓に石を供えるユダヤ人たちのドキュメンタリーシーンだ.自分自身,ユダヤ人にはEinsteinやそれこそSpielbergなど好きな著名人も多いが,それでも違和感を感じずにはいられない.

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 Spielberg自身がユダヤ人であることもあって,彼の映画には反ナチズムが色濃く表れているものが多い(インディ・ジョーンズのシリーズなんかその典型).Spielbergの映画でなかったらかえってそういう余計な詮索なしに受け入れられたかもしれないが,この映画にはプロパガンダに近いアンフェアさを感じないでもない.ましてやこの映画の公開年,イスラエルではオスロ合意が結ばれた年である.

2009/12/01

The Whole Nine Yards (2000)

隣のヒットマン [DVD]
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント(2006-10-27)
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 続編の方を先に観てしまっていたので,展開がほとんど見えてしまったのは失敗.でも,続編の方がやや面白いかな.

 Matthew Perryがとにかくかわいい.しかし,盛り上がるべきところで余計な邪魔ものが登場してしまうことが多く,今ひとつヤマがない.アクションでもないし,コメディにもなり切れていないし,中途半端.多分,Matthew Perryの主観で物語が進んでいくわりに,彼が凡人過ぎるのだと思う.

2009/11/30

L' Amant (1992)

愛人(ラマン) 無修正版 [DVD]
東北新社 (2000-08-25)
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 タイで知り合った日本人に紹介して貰ったフランス映画で,帰国してからわりと直ぐ観た.植民地時代のベトナムを舞台にしたラブストーリーで,時代背景などを全く無視して観てしまうと,延々とセックスシーンが続くただのかったるい映画にしかならないかも知れない.

 フランス映画らしいというか,色彩やBGMに加えて,台詞のいいまわしがとても凝っていていい.何というか,フランス映画は数を観ていないので一概にはいえないけれども,全体的に五感すべてにうったえてくる映画が多いように思う.色彩や音楽,カメラワークや台詞を上手につかって,視覚,嗅覚,味覚,聴覚,触覚のすべてを覚醒させるというか,そんな感じ.この映画も,そういうセンスは感じた.

 しかし,色々な意味でのただただネットリとした描写はやや退屈.最後のラスト5分でそうした気持ち悪さがサッと洗われるのだけれど,そこまでが冗長過ぎてやっぱり少し気持ち悪さがが残る.

 余談だけれども,韓国映画でほとんど同じタイトル,同じパッケージの映画があるようなので(お店で見かけて勘違いしそうになった)間違いに注意.

2009/11/29

雑記#009

 最近でも,レビューしている映画は1ヶ月以上前に観たものがほとんどで,タイムラグがある.夏以降に観たものでもまだ30作くらいストックがあるけれども,少しずつたまって来た今となってはそれに固執する必要もないし,さすがにそろそろ本業で時間を取られていることを考えれば,就職活動中のものや過去のものもそろそろチミチミ載せていこうと思う.

 それでも,なるべく最近見たものはホットなうちに.ブログとは別に簡単なデータベースとコメントリストを作るようにしたので,それを見ながらレビューは幾らでも出来るのだが.

 ちなみに,現時点で,今年観た洋画は大体150本(2回目多数),邦画その他は30本,海外ドラマが約260話(洋画約80本分)くらいか.やっぱり就職活動中の分が相当効いている.

2009/11/28

TAXi (1998)

TAXi [DVD]
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ポニーキャニオン (2005-03-02)
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 アド街ック天国を彷彿とさせるOP(挿入曲そのものは「Pulp Fiction」で既出かと).

 多分テレビで散々放送していたはずなのだけれど,実は見ていなかった映画.フランス映画だということも知らずに見たら言葉はチンプンカンプン.仏語難しい…….
 ストーリーも王道ながら期待を裏切らない痛快なカーアクション映画.もう少しアクションシーンが多ければなぁと思わないでもないけれど,結果オーライというアメリカンな盛り上がり方とは一味違った面白さがある.

 ただ,車の改造の仕方がフランスというよりドイツや日本的な感じがするのは気のせいだろうか.イタリア車やフランス車の美しさの一つは,曲線美にあるようにも思うので.

2009/11/27

The Invisible Circus (2001)

姉のいた夏、いない夏。 [DVD]
ギャガ・コミュニケーションズ (2007-06-01)
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 Cameron Diazは主演という名の助演.欧州で不可解に死んだ姉の足取りを追う妹のストーリー.

 描くべき心理描写が描かれていないのではなくて,描くべき感情そのものがないといった方がいい.見えるべきものが描かれていないのではなくて,もともとFaithには何も見えていなかったといった方がいい.
 この映画の失敗は,ドラッグを登場させてしまったこと.ドラッグを言いわけにすれば,どんな不可解な行動も,どんな奇妙な思考も,全て無意味に片付けられてしまう.姉のFaithはそれでも,確固たる信念に従って行動したのだ,という一番大事な部分を放棄してしまったら,この旅にも,この物語にも価値がほとんどなくなってしまうように見える.父の存在がうやむやなのもイマイチ.

 演出の面でも,最終的にWokfの主観で物語が語られるのなら,Wolfの見た光景だけをつなぎ合わせて映画をつくりあげた方がリアリティがあっていい.結局,そのあたりも中途半端.

 淡々と登場する欧州の風景は心地よかった.観終わったあとにそこそこ気持ちよさが残っただけに,それぞれの部分でもう少しこだわりと情熱を魅せて欲しい映画.

2009/11/26

The Dead Pool (1988)

ダーティハリー5 [DVD]
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ワーナー・ホーム・ビデオ (2009-11-18)
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 ダーティハリーのラストシリーズ.若き日のLiam NeesonやJim Carreyが初々しくていい.

 ストーリーはというと,Harryが結構丸くなってしまった一方で,事件そのものもご都合主義的な感じが否めず,全体的に迫力に欠ける.Clint Eastwoodの年齢的な温かさも,ダーティな雰囲気と相いれなくなって来ていたというのもあると思う.一つのシリーズで間があいてしまうと,時系列でストーリーが進んでいくものじゃない限り年齢的なギャップは避けられない.

 ラストに関しては,もうアクションとかサスペンスじゃなくて,どっちかというと戦隊ヒーローものっぽい空気.ついでに,ラジコンカー爆弾.あれだけの威力の爆弾を乗せた高性能マシンを80年代の素人が作れるもんなのかなぁ.

2009/11/25

Lifeboat (1944)

救命艇 [DVD] FRT-108
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 Hitchcockの映画.Hitchcockは何年も前に友達に勧められていたのに,結局初めてみたのは今年の春.こちらはHitchcockの中では異色の作品,なのかな.

 戦火から逃れた船の乗客たちが,一隻の救命艇という閉鎖的な空間の中で漂流を続ける物語.ほぼ一つの舞台で繰り広げられる戯曲的な展開と,非日常的な状況下での人間の心理描写が面白い.

 ただ,その心理描写もちょっと違和感がある.極限状態まで追い詰められた人間たちにしてはあまりに楽観的に冷静でもあるし,一つ一つの行動に不可解な点も多い.エンディングも,この長い航海の幕切れとしてはあまりに中途半端な感じだ.映像的にも,下手に安っぽい星空なんか張りつけない方が良かったと思う.

 上に書いたような物足りなさの背景には,戦時中という特殊な時代背景もあるのだと思う.当時の映画が自由に作れたとはとても思い難いし,映画がプロパガンダとしての役割を大きくになっていたことを考えれば,アメリカ人に甘くドイツ人に冷酷な脚本も仕方ないのかも知れない.

2009/11/24

Friends season 6

フレンズ VI 〈シックス・シーズン〉 セット1 [DVD]
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 RossとRachelの泥酔結婚からMonicaとChandlerの婚約までを描いたシーズン.ルームメイトが変わったり人間関係が変わったりと,シーズン5とシーズン7の間の緩衝材的な部分もあって劇的な展開は少ないけれど,その分,ゲストの存在感が大きい.

 ゲストの中でひときわ目立つのは,Bruce WillsとRalph Lauren.ってかRalph Laurenドラマになんか出るんだ,って感じ.Bruce Willsはゲストの中では登場回数も多く,この大物が脇役でおさまってしまうのを見ては改めてメインの6人を“ああ,この人達ってスゴいんだな”と思わされた.

2009/11/23

Friends season 4

フレンズ IV 〈フォース・シーズン〉 セット1 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-05-08)
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 ドラマ「Friends」の4thシーズン.このシーズンの主役は,代理母出産を決意するPhoebeと新たな結婚に向かうRossといっていい.米英での国際結婚でもいろいろと障害はあるようで…….あとは,ラストでマイラブリーChandlerに大きな進展があるのも嬉しい.順不同で観て,結末を先に知っていただけに待ってましたといった感じ.

 このドラマのキャラクターはそれぞれ救いようのない欠点があるから面白いのだけれど.やっぱりシリーズ通して人間関係ではRachelが一番損してるよなぁ…….逆に,Chandlerが一番得してる,っていうか彼だけ魅力があり過ぎる.

2009/11/22

Copying Beethoven (2006)

敬愛なるベートーヴェン [DVD]
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 むかしに観た映画も少しずつストックして行こう.「Inglourious Basterds」に出演していたDiane Krugerの名演が光る.むしろ,Beethoven役のEd Harrisの方は演技が若過ぎたように見える.

 「Amadeus」と一緒に観たBeethovenのフィクション映画.と言っても,むしろ主人公はBeethovenではなく,その写譜師Anna Holtz.歴史的に空白の部分を埋めるフィクションと,歴史のパラレルワールドを描くフィクションとでは全く意味合いが違う.この作品も「Inglorious Basterds」も後者で,コンセプトとしては苦手.

 この映画の魅力は,何と言っても音楽.そりゃそうだ,一番の山場がBeethovenのオケで彩られているんだから.脚本も悪くはないし,音楽は大迫力だから,観終わったあとの心地よさは抜群なのだけれど,題材と主観の選び方でちょっと失敗してしまっている感じ.

2009/11/21

Inglourious Basterds (2009)

 Quentin Tarantinoの最新作「Inglourious Basterds」.Tarantinoの趣味の悪さはもう分かっているのに,何やらコミカルな英雄伝みたいに宣伝している広報が何よりいただけない.上映中,大量のグロテスクな殺戮シーンに気分を悪くした観客も多かったと思う.

 また,外国人の多い街,ということもあるのだろうが,鑑賞客の外国人比率が異常に高かった.観客の3割くらいは欧米人だったんじゃないだろうか.この映画,英語のみならずドイツ語,フランス語,イタリア語がそこらじゅうに登場する上に,それらの言葉を多少なりとも知っていないと笑えないツボがある.

 自慢じゃないけれど,自分は英語とドイツ語はソコソコは使えるし,イタリア語も趣味でかじっているので,劇場にいた外国人と同じタイミングで笑えたのが痛快だった.周囲の日本人の中には,なんで今のところで笑えるのか分からなかった人も少なからずいたのではないか.そういう意味でも,一般人には不向きな映画だと思う.

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 さて,映画について.以下,多少のネタばれもあるのでご注意を.

 まず,この映画,世界大戦中の事実に“基づいて”つくられているというだけに,ストーリーの方向性を完全に見誤ってしまった感でいっぱいだ.物語後半の見どころとなる作戦の成否は作品の運命を握る重要な鍵ではあるけれども,まさかHitlerやGöring,Goebbels,Bormannといったナチスの最高権力者たちが作戦で全員惨殺されてしまうなんて思いもしない.彼らの最期は史実から教えられているからだ.
 こうした脚本に仕上げた狙いとしては,一つには自分みたいに史実からラストを推測している人に肩透かしを食らわせること,一つにはファシズム体制(あるいは国による映画への介入も含めて)に対する皮肉,一つにはHitlerのような歴史的犯罪者を虐殺することで欧米人にある種の痛快さを味わわせること,一つにはTarantinoの趣味(笑),といったところがあると思うし,その効果は絶大だったけれども,舞台が舞台だけに,歴史的リアリティまで放棄して欲しくはなかった.

 また,作戦の裏で進むナチスへの「報復」が,ナチスを鏡に映したような残虐なアイディアと台詞で遂行されるのも,もの悲しい.もっとも,それはそれで観終わった後,観客達に「戦争とは,報復とは,何て無意味で儚いなものなんだ」と強烈に思わせる狙いがあったのならばいいのだろうが,Tarantinoにそんな趣味があるなんてとても思えない.とは言え,この点は結果オーライで,多分,下手な戦争映画よりよっぽどショックを与えられていると思う.

 結局,ショッキングな戒めを与えながらも,ラストシーンで完全に虚構であることを暴露してしまい,後味が中途半端になっているのが残念.ショックだけを残して安心感を与えられるような構成になっていれば秀逸だが,気持ち悪さだけを残して裏切られた感を抱く人の方が多いのではないか.まぁ,その二流感もTarantinoの為せるワザなのかもしれない.

 あと,あくまで1976年の元映画「The Inglorious Bastards(地獄のバスターズ)」のリメイク作品という位置づけなので,ひょっとすると原作の方にルーツがあるのかもしれない.チャンスがあれば是非観たい.

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 一方,そうした脚本の中,この映画が欧米で大絶賛されている真の理由は,役者たちの演技だと思う.ブラピの表情には無理があるとしても(笑),役者たちの熱演,特にChristoph Waltz演じるランダ大佐の存在感と迫力は圧倒的で,ブラピや他の出演者たちを完全に負かしてしまっている.

 まぁ,ちょっと期待し過ぎたというのもあるけれど,正直イマイチ(上に書いたような理由が逆に功を奏してあとからジワジワ来るかも知れないけれど).Tarantinoのやり方や美学でネタにしていいテーマじゃないと思う.4ヶ国語を巧みに使ったことば遊びが一番面白かった.あとは,この映画,タイトルの付け方が一番間違っている気がする.

2009/11/18

Book of the Year 2009

 2009年も終盤.そろそろこの一年を振り返り始めよう.多分,研究が忙しくなってきて本を読む時間はこの先ほとんどないので,今年読んだ本のヒット作からまとめてみる.

 今のところこのサイトはほぼStand Aloneにしているので,自分と接点のない人は読んでいないはずなのだが,このブログを知らない人が読んだら「多趣味な文化系自由人」くらいにしか見えないんじゃないか.映画のレビューもコツコツ書きためてはいるけれど,PCで映画を見ている裏で,もう一つのコアCPUをフル回転させて,量子統計の計算を走らせたり,設計した人工知能に記憶を組み込んでいたりするなんてちょっと想像しがたいと思う.

 そんなだから,Books of the Yearと銘うってイキナリ数学の専門書が出て来たら肩透かしを食らわせてしまうかもしれないが,あくまで本業は数理屋のハシクレ.一日5回は積分を欠かさない生粋の理系人であることはご了解のほど.

【Book of the Year 2009】

  • 平田オリザ/『演劇入門』
演劇入門 (講談社現代新書)
平田 オリザ
講談社
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 自分の中で「文芸復興年」とも言える今年を象徴する一冊.

 この本をタネにして,さまざまに思索と模索を繰り返した結果,演劇にとどまらないアートの意義を,ひとまず自分なりに見出せたと思う.それは,もはや,自分の専門研究テーマやその理論をも侵し,再考させる材料となっている.

 この本で主張されている演劇観に,自分はおおむね賛成だけれど,これが絶対の価値観ではない.しかし,演劇という形式を通じて,いまの社会に欠けているものや大衆が忘れかけているものをひたひたと伝えてくれる一冊.この本を読み終わったとき,この本もまた,本書で主張されている演劇論的「リアル」のたまものであることに気付かされる.

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【文芸部門】

 小説をほとんど読まなかったけれど,それに準ずるものは結構読んだと思う.
  • Richard Linklater/『Before Sunrise & Before Sunset』
Before Sunrise & Before Sunset: Two Screenplays (Vintage)
Richard Linklater
Vintage
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 今年の自分の中での断トツのヒット映画,「Before Sunrise」と「Before Sunset」の脚本集.演劇的なセンスが最高にいい.脚本,演出という観点で,一つの自分の理想形とも言ってもいい.

  • Emanuel Derman/『物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進』
物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進
エマニュエル ダーマン
東洋経済新報社
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 来春からクオンツとして働くにあたっていろいろ学ぶべきところが多かった一冊.物語としてはやや専門用語が多いかもしれないけれど,自分の仕事を理解してもらうにもいい一冊だと思う.

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【自然科学部門】

 本業の分野では論文とレビューに特化していたので,本はほとんど読まず.その代わり,ちょっと斜めにずれた分野とか,来年以降のカギになりそうな本は幾つか読んだ.
  • Kurt Gödel/『不完全性定理』
ゲーデル 不完全性定理 (岩波文庫)
ゲーデル
岩波書店
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 Roger Penroseを読むための前菜として読み始めたのだけれど,この一冊で自然科学に対する世界観が一変する.数学がなぜ欧州では哲学とされるのか,その意味を突き付けられる.

  • David Nualart/『The Malliavin Calculus and Related Topics』
The Malliavin Calculus and Related Topics (Probability and its Applications)
David Nualart
Springer
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 かいつまんで読んだ程度.Itoの確率積分に対する微分形とも呼ぶべきMalliavin解析に関する本.主にファイナンスにおいて,事前にどういった応用性があるのかは概観しておいたので,かいつまんで眺めるだけでも十分収穫のあった本.

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【人文科学部門】

 人文科学といっても,経済学とビジネスがらみの本ばかり.このジャンルで読んだ新書は20冊以上.
  • 若林秀樹/『ヘッジファンドの真実』
ヘッジファンドの真実 (新書y)
若林 秀樹
洋泉社
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 映画「ハゲタカ」を観たあとで,あらためてヘッジファンドについて考えたときにいいヒントになった.実態も知らずにあたまごなしにヘッジファンドをたたいているアレな人には是非読んで貰いたい.

  • Nassim Nicholas Taleb/『ブラックスワン』
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社
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 今年の経済系のベストセラー.言わずもがな.警鐘を鳴らすだけじゃなくて,活路を与えるところがもう少しあっても良かったけれど,経済への(ネガティブな?)影響力を与えた本として読む価値はあるかと.

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【芸術部門】

 平田オリザのオンパレード.芸術系の本も,就職活動中に20冊くらいは読んだ.千住博さんの本もチラホラいいのがあったけれど,平田オリザの存在感には勝てない.
  • 平田オリザ/『演技と演出』
演技と演出 (講談社現代新書)
平田 オリザ
講談社
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 『演劇入門』よりももう少し方法論として洗練されている感じ.最初に手にとってのがこの本だったら,総合トップもこの本だったはず.

  • 平田オリザ/『芸術立国論』
芸術立国論 (集英社新書)
平田 オリザ
集英社
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 内閣官房参与としての活躍に期待.芸術と産業に関する自分の長いあいだあたためて来た考え方や理想と,少なからずオーバーラップしていたというだけでも奇跡的な一冊.

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【コミック部門】

 オノナツメ一色.bassoはオノナツメの別名義.
  • オノナツメ/『not simple』
not simple (IKKIコミックス)
オノ ナツメ
小学館

 画風,配置,台詞,時間,全てにおいてセンス抜群.もはや他のマンガ家の追随できる世界じゃない.オノナツメ作品はコンプリートしてしまった.その中でも,一番,社会的テーマを隠喩的に組み込んだ傑作.

  • basso/『amato amaro』

 自分は断じてストレート.だけれど,社会的にはBL&GLも意味があることだなと思い始めていたり(腐女子のようなチャカシではなく.そう思う理由は学術的にちゃんと持っている.).中でも,人間のインテリジェンスや政治・経済とシンクロさせたこの一冊はスゴい.“ボディガード×経済学者”.このキャッチコピーだけでおなかいっぱい.

2009/11/17

Crash (2004)

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 半年前に観た映画.今年観た中ではベスト10には入るかも.近年の歴代アカデミー賞作品は,この春まとめて見漁った.たまにはその頃の映画のレビューも書きためておこう.

 人種や国籍による差別というテーマやメッセージは誰もが分かる.大事なのは,それを自問自答できるかどうかだと思う.

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 自分は人種や国籍で人をみてはいないという自負がある.そういう大きなカテゴライズに意味がないと思っている(新興宗教に対してはクラスタリングに妥当性があると思うし,ある程度は警戒はするけれど).

 最近,政治的な影響もあってか,日本人によるアジア系の人達への誹謗中傷を目にすることが多い.別に中韓を愛しているとは言わないが,ここまで卑しい反応を見せる理由が自分には正直,理解できない.この国の元来の美しさを知ろうともしないで,他人から聞いた受け売りと,まわりの空気だけで,いつの間にか反発の輪に加わってしまっているだけじゃないのか.

 自分の場合,愛するものが少な過ぎることの裏返しかもしれない.ただ,怒れる人達,憎める人達は,それほどまでに何かを愛しているのか.じゃあ結局どうしたいんだ,という解決策も持たないままに狂気をふるうこの国の空気の方にこそ,最近じゃ嫌気がさしてしまっている.

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 そもそも,例え何かの因果があったとしても,それを同じ因果で返そうとする姿勢そのものがナンセンスだと思う.相手を引きずり下ろすではなく,自分が上に登ったり,相手に手を差し伸べることで補完していく方が,なにごとも円満に進んでいきそうなものだけれど.

 ただし自分は,人種や国籍,学歴でフィルタをかけない代わりに,同じ条件下での人の実力や引き出しの広さ,考え方の柔軟性などなど,内面的な部分ではちゃっかり優劣をつけている.それはそれで,悪いことだとは思っていないけれども,実際のところどうなんだろ.基本,来るもの拒まずな自分と似ている性格を選り好みしているだけのエゴだとも思うけど.

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 映画の話をしよう.この映画,「Love Actually(ラブ・アクチュアリー)」と似たような構図のドラマになってて,登場人物たちの相関がやや強過ぎる気はするけれども,それ程にこの社会には,人種差別がはびこっているということの裏返しなのだと思えばいいか.

 この映画のいいところは,最終的に人種差別の無意味さをその淡々とした脚本と音楽とで如実に悟らせるところであり,逆に悪いところは,エンディングの心地よさに酔ってその戒めが美化され,忘れ去られてしまうところだ.
 この映画の叫びは,脚本の台詞の中ではなくて,むしろ声に出してあらがえなかった人達の無言と,あとから過ちに気付かされる人達の苦悩と,そして観る者すべての経験の中にこそある.

 地球の裏側で起こっている人種差別のドキュメンタリーとして見捨ててしまうには,あまりにもったいない作品だと思う.

2009/11/16

The Whole Ten Yards (2004)

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 まさか続編映画だなんて思わなくて,Matthew Perryが出演しているってだけでレンタルして観た映画.続編で全て前作の展開を拾えてしまうので,後から見た前作の方が不発だった.

 ドタバタのアクションコメディ映画.「Ocean's Eleven(オーシャンズ11)」みたいにしてやったりな後味を出そうとしているようで,それが全く出し切れていないのは惜しいけれども,却ってB級コメディっぽくて好き.Bruce Willisも適役でいい.

2009/11/15

Sudden Impact (1983)

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 Sondra Lockeは綺麗だが,推理モノの面白みはなし.行き当たりばったりで物語が終わってしまった感じ.

 もっとも,それはこの作品に限らずシリーズに共通して言えることかも知れないけれど,役者の豪華さを除けば,日本の二時間ドラマの方がいい刺激になりそうな気がする.

2009/11/14

Running on Empty (1988)

旅立ちの時 [DVD]
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 River Phoenixに鳥肌が立った.

 英題がいい.演技がいい.モチーフがいい.そして音楽の使い方が,反則的なまでにいい.最近観た映画の中では一番良かったかも.

 この映画を単なる感動のストーリーと観てしまってもいいと思うけれど,親と子どもの愛のバランスについて問題提起をしているようなところが感じられて個人的に好きだ.

 映画「Before Sunrise」の中で,“何でも子どものいう通りにしてしまう親もまた悪い”といった台詞がある.自分の経験からすれば,そういう親は愛情を勘違いしてしまっているのが半分,怒ったり正面から向き合ったりする面倒くささから逃げているのが半分,といった感じがするのだが,逆に,何でも親の言うとおりにしてしまう子どもはどうだろうか.

 この映画でRiver Phoenix演じるDannyが不幸な境遇に従順だったのは,両親を愛していたからだ.ラストシーンで両親がDannyを旅立たせるシーンで,Dannyもまた別れを哀しんでいることを,自分が脚本家ならもう一歩踏み込んで魅せたかった.
 しかし,そういう感情の葛藤を,River Phoenixの演技がそれだけで補完出来てしまっている.それくらいに,River Phoenixが素晴らしい.これはもしかすると,Riverの演技力に加えて,River自身の複雑な家庭環境が少なからず彼を感情移入させてたんじゃないかな,なんて思ったりもした.

 あとは,ここ何年か感じている国家機構に対する違和感を再確認したり.

2009/11/13

Murder on the Orient Express (1974)

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 Agatha Christieの小説の方を読んだことがあったので結末は知っていたが,コレを映像化するのは意外と難しかったんじゃないだろうか.

 原作は,自分の読んだ数少ない古典推理小説の中ではいまひとつインパクトに欠けていた作品だったので,旅行記と喜劇的なエンターテイメント性を兼ね備えた映画の方がやや好み.昔,何かの評論で,マラソンや駅伝が楽しい理由の一つは,めまぐるしく背景が流れて,自分も一緒に旅しているかのような錯覚に陥るところにある,といった類の話を読んだことがあるけれど,この作品なんかはまさにそれに近い面白さがあるんじゃないかなと思う.

2009/11/12

CUBE (1997)

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 システムの概略はぼんやりわかった……が…….

 偶数や5の倍数の素数判定に何秒も費やすような奴に数学まかせんなよ……しまいにゃ,3ケタの因数分解にスパコン使い出すとか言ってるし……そうだね,3つも3ケタの数が出て来たらCPU3つで並列計算させないと時間かかっちゃうもんね.

 そういう数理的なところ以外でも,全体的に,解き明かしていく感が全くない.それどころか,脈絡もなく理論や仮説が登場しちゃうし,とても気持ちが悪い.用語もところどころ誤用があるので,まともに高校レベルの数学と物理やってる人ならミスリーディングまでされてしまう.

 基本,ポジティブなことを書きたいのだけれど,脚本も舞台設定もイマイチ面白さが感じられなかった.極限状態での人間の心理を描写したにしては甘っちょろく,ホラーやサスペンスというにも実在主義的で,インテリジェンスをチラつかせたにしては詰めが甘すぎ,結局,全部が中途半端な感じ.

 数学的なモチーフを選んだ映画で気にいった作品ってあんまり記憶にない.スパイス程度に効いている映画なら,「Good Will Hunting」はじめ,いい映画たくさんあるんだけどなぁ…….

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