- 知ることとは愛すること―田淵行男写真展
- 武蔵野市立吉祥寺美術館
吉祥寺でカフェ歩きをしているときに,たまたま目に付いて入った写真展.元々,写真の知識は無いに等しいので,田淵行男さんという方の名前も知らなかった.小さな展示室に集められた田淵さんの写真は,長野県の山々の風景を冷静におさめたものだった.静かで,厳かな,アルプスの山々.安曇野の風景.京都に次いで愛して止まない長野の本質を一枚一枚に凝縮したような写真達と向き合い,気紛れで立ち寄った思いつきにセレンディピティを感じていく.山の写真意外に,帳の写真や模写といった生物や美術の心得もあるようで,この写真家の人となりがとてもよく見える写真展だった.印象的だったのは,彼の山に対する思いだ.彼が山を歩くとき,一人を好むのは,彼が歩くことそのものに価値を見出しているのではなく,あくまで山の自然の風景を観察することに価値を見出しているからだという.とてもよく分かる.ここ10年とか15年とかの間,或いはもう少し前から,やたらと「自然」という言葉が乱用されているが,大抵の場合は自然を再現した人工の緑であることが多い.街の並木道,自然公園,ハイキングコース.自然は,人間が手を加えた瞬間に自然でなくなる,という人もいる.キリスト教圏では,「Nature」は神が創りあげたものだけを指すから,やたらと多用するのは好ましくない,なんて話を大学受験の頃に聞いたこともある.人間も自然の産物だから,人が手を加えても自然は自然,というくらいに自分は思っているけれど,人間の足跡が少なければ少ないほど,普段見える景色とはまるで違う世界が拓けるということもある.喧騒を忘れて自然に溶け込めるということもある.
ともあれ,そうした自然への熱い思いの痕跡が,写真と併せて展示されている彼自身の言葉を通じて伝わってくる.一言一言が,レンズの手前の撮影者の視線を映し出すようだった.
彼の写真の安曇野やアルプスは,とても美しかった.でも,その美しい自然の長野を,自分はよく知っている.久し振りに長野に行きたくなった.うまい具合に,来月,連休が控えている.実家の車を走らせて,上高地の紅葉と,安曇野の畑,白馬の山々に身を投じてみるのもいいだろう.ついでに,安曇野アートラインや山梨の美術館を散策するのも悪くない.


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