- フランダースの光―ベルギーの美しき村を描いて
- Bunkamuraザ・ミュージアム
最初にポスターを見た瞬間に,なんという美しい絵だ,と思った.それまで,Emile Clausという名前は聞いたことがあるくらいで,特に意識したことが無かったのだけれど,少なくともポスターから感じた期待値は今年観たどの企画展よりも高かった.思わず,渋谷の駅のホームで立ち止まって魅入ってしまったほどだ.渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「フランダースの光―ベルギーの美しき村を描いて」展.実は関西で先行開催されていて,満を持して東京にやって来た企画展だったのでおのずと前評判は耳に入っていたのだけれど,東京での公開初日に早速美術展に足を運び,そして度肝を抜かれた.タッチ,色使い,モチーフ,構図,全てが奇跡的に美しい.先日の「語りかける風景―ストラスブール美術展」で観たMaurice Herriotの傑作と通じる魅力があるけれど,それだけではないのだ.
ねっとりとした筆遣いと,点画法と呼ばれる粗いスパッタリングのような筆遣いが随所で色彩豊かに使い分けられていて,強弱が平面の中で立体的に描き出される.遠近法に加えて,シャープな輪郭とぼんやりとした輪郭とを使い分けている点でも,視覚のリアリティを忠実に描き出す.多くは農村の風景がモチーフであり,ベルギーはフランダースのラーテム村という農村に集まったClausをはじめとする画家たちの,自然と人間への温かさと優しさが滲み出るような生命力を感じさせる.それは,バルビゾン派のMilletやCorotから半世紀ほど後れをとりながら,或いは彼らの作品よりも更に胸躍らせる魔力を持っているようにも見える.バルビゾン派の作品よりも,技巧的にも面白く,そして何より,明るいのだ.
企画展のタイトルにも選ばれている「光」は,自分が2年前にVermeerに感じた最大の魅力でもある.Vermeerのように光を巧みに操った絵という印象は少ないけれど(解説を読んでみるとなるほどEmile Clausもまた意図的に光を駆使してもいるのだが),バルビゾン派の絵画が,暗く,重く,しかし強い人間の姿であるならば,Clausの絵画は,明るく,軽く,希望に満ちた人間の姿とでもいうべきだ.帰って来て図録を長めていても,全くといっていいほど飽きない.美術館で見た生々しいタッチが思い出され,同じ日にもう一度美術展に足を運びたくなる.ポスターで取り上げられている「刈草干し」意外でも,「ピクニック風景」,「野の少女たち」(個人的にはこの絵が一番好き),「レイエ川沿いを歩く田舎の娘」,人物が描かれた作品はことごとくいい.ここに挙げた後ろ2つの作品は個人蔵ということもあって,この機を逃すと一生の間に再会できるか分かったものではない.ウォール・ストリートの名実ともに最高峰のクオンツたちがこういう作品を意図も簡単に競り落としてしまえることこそが,羨ましくも思える.
東京に戻ってから観た美術展は相変わらずどれもセンスが良く,満足な企画展ばかりだけれども,この「フランダースの光」展は今年のどの企画展よりも美しい.言葉で言い表せないような魅力が,Emile Clausの絵にはある.ベルギー絵画,フランダース.今までノーマークだったけれど,次の欧州旅行はVermeerを訪ねて間違いなく本家のオランダを組み入れるだろうから,ベルギー絵画ももう少し研究して,寄り道してみようと思う(実はベルギー国境までは行っているのだが).来年はオランダに行こう.来年の長期連休は,オランダからベルギーを抜けて,パリだ.


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