2010/08/04

宮下奈都『太陽のパスタ、豆のスープ』

太陽のパスタ、豆のスープ
宮下 奈都
集英社
売り上げランキング: 44974

 『スコーレNo.4』の宮下奈都さんの本を読みそろえてみようということで,買った二冊目が『太陽のパスタ、豆のスープ』.スコーレを先に読んでしまっていると,拍子抜けするくらいに地味で狭い話に見えるし,表現も,展開も,密度も,センスも,どれを取っても二番手といった感じがしてしまうけれど,それは比べる相手が悪いだけのこと.読んでいる最中も,読み終えたあとも,ポカポカした膜のような幸福感に包まれるいい小説だった.女性らしいかわいい感性に,客観的というよりはかなり主観的に共感してしまった.

 スコーレの麻子と違って,主人公の明日羽は一癖ある家庭環境も,卓抜した才能も持ち合わせていないけれど,マイナスからゼロへ,ゼロからプラスへ踏み出すストーリーは元気をくれる.料理をモチーフにしている点ではたまたま『それからはスープのことばかり考えて暮らした』とも重なっているけれど,こちらは料理そのものというよりは,日常の大切さや仕事の意義,生きる意味みたいなものを,豆のスープに凝縮した感じ.

 『スコーレNo.4』ほど洗練された傑作ではないけれど,“あとで読み返したいなぁ”と思って貼ってみた付箋の数は,スコーレのそれより多かった気がする.結局,生まれながらの肩書きや才能はないものの,日常に人一倍楽しみを見出していると自負している自分に,少なからず共感するところがあったのだと思う,
 思わぬ人に会って隠れてしまいたい気持ちだとか,雨の日に感じる憂鬱さと愛おしさだとか,お金に対する感覚だとか,心が洗われもするし,救われもするような感性が沢山ある.特に,お金の感覚は,どうにもいまの仕事が自分の価値観と正反対をいっているように感じるジレンマみたいなものをスッキリさせてくれて,一石二鳥.

 まずは仕事を一週間くらい休んで,延々と料理し続けるような休日を過ごしたいな,なんてちょっと思った.そのためにはまずキッチン.この本を読んだあとで文房具屋さんに寄って,ちゃっかり“ドリフターズ・リスト”を作ってしまったミーハーな自分を応援しよう.

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