2010/08/07

近藤雄生『旅に出よう―世界にはいろんな生き方があふれてる』


 3月まで京都で塾講師の仕事をしていたときの同僚が書いた本.本業ではライターをしている方で,新聞で彼の記事を読んだこともある.先日,京都から友人である別の元同僚が上京したときに,近藤雄生さんが最近本を2冊出版したという話を聞いて,早速購入した.この本はそのうちの一冊だ.
 仕事の合間に,彼の経験については色々と伺ったことはあるけれども,読んでみるとやっぱり面白かった.

 この本を読んで感じたことは,「うらやましい」と「悔しい」の二つに尽きる.

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 元々旅好きだったことに加え,下川裕治や高校時代から好きだった沢木耕太郎の影響もあって,大学に進学してからも暫くはライターみたいな仕事にぼんやりとした憧れを抱いていた時期がある.世界中を旅して,多くの世界を知りたいと思った.尤も,当の自分に世界を放浪できるほどの経済的な余裕は無かったし,せっかくつかんだ京都での生活を満喫するだけで精一杯だったから,海外を旅するのは後回しになっていた.ようやく世界に飛び出したのは大学院に進学してからで,そこから13カ国を放浪(中学時代と併せて16カ国).文化の違い,歴史の違い,価値観の違い,その全てが新鮮で,まだまだ歩き足りないと思いながら,社会人になってしまった.

 いまになって思えば,親に借金をするなり,大学を休学するなりして,いくらでも世界を渡り歩くチャンスは作れたのだから,結局その一歩を踏み出さなかった自分が悪いのだ.近藤さんが旅に出たのは27歳のときのこと.18歳のときに同じようなことを思っていながら,結局,中途半端でとどまっている自分はあまりに小さい.
 仕事を始めて間もないが,今の仕事に誇りや使命感を感じているわけではない.ただただ,数学や物理学の手法を使える面白さにおぼれていると言ってしまえば,それまでかも知れない.今の仕事で一番抵抗があるのは,スーツを着ることと,お金がモノサシになってしまっていることだ.お金ではかれるものなんて,世界のほんの一部のそのまた一部でしかないのに.

 今の仕事は面白いし,実際問題,一番リスクの少ない道の一つではあるから,とりあえず気が向くまで頑張ってはみるつもりでいる.ただ,自分の場合,俗世の権力や名誉にはあまり興味がなくて,例えば途上国の片田舎で自給自足の生活を余儀なくされても,結構楽しめてしまう,それどころかそれを歓迎してしまう人だから,社会人になったいまも,そういう世界とのつながりを閉ざさないでいようと改めて思ったのだった.思い立ったその日に,いつでも旅立てる心構えをしておきたい.

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 近藤さんの経験はとても貴重なものだが,いまや旅行記なんてweb上のどこにだって転がっているし,面白い経験談ならこの本でなくてもいくらでも探せるだろう.それでも尚この本が面白いのは,この旅行記が,ルポタージュと違って主観に溢れているからだ.どういうことがいけなくて,どういうことがいいと思うのか,何が問題ではなくて,何が議論されるべきなのか.旅の先々で出会った人や出来事を,掘り下げていく観察眼も素敵だ.立場を明らかにしてしまうことが却って足元を無防備にしてしまういまの時代,あちこちに転がっている文章はどれもこれもルポタージュになりがちだけれども,彼の主観は,彼の旅の経験に命を吹き込む.そういった主観が,自分が日ごろ気持ちの奥で抱えている価値観とかなり重なっているのも,この本を一気に読めた理由の一つだ.

 岩波ジュニア新書ということもあって,中学生でも読めるような平易な一冊.だからこそ,いまの日本の中学生達には是非とも読んで欲しい一冊だ.日本の教育は概ね,(小さい頃は)客観的な知識を与えることばかりに力を入れがちで,主観はともすると危険な思想や宗教にさえ結び付けて語られがちだけれども,彼の主観から見える景色は,決して人を傷付けることはないだろう.

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 同じような価値観を感じていながら,その主観を誰とも共有出来ないままでいる自分がふがいなくもあり,悔しくも感じた.

 あとで,近藤先生に連絡をしてみよう.

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