「The King's Speech(英国王のスピーチ)」は2010年のイギリス映画.英国王のGeorge6世が,言語聴覚師のLionel Logueと共に自身の吃音症を克服していく物語.今年のアカデミー賞候補作品ということもあり,賞発表前の公開初日に劇場へ足を運んだ.前評判が非常に高く,評判の安定感では「The Social Network(ソーシャル・ネットワーク)」の上を行っていたと思うのだけれど,個人的には「The Social Network(ソーシャル・ネットワーク)」の方が断然好き.作品そのものは非常に良い作品だけれど,世界大戦の複雑な情勢下の,王室という極めて政治に近い場所をモチーフにしているにもかかわらず,政治的なリアリティが完全に削ぎ落とされてしまっていたのが残念だった.ChurchillやHitler(映像のみ)など当時の戦局を左右する大物が登場すれば,ドロドロした政治の裏側の描写も期待してしまうのだが,王室のイメージと政治の薄黒さを結び付けたくない意図もあってか,あくまで英国王の形式的な公務にのみ焦点を絞った描き方はちょっと物足りないものがある.国王の存在が,国民にとっていかに大きな存在で,支えになっているかということが強烈に伝わってくる反面,大戦下であっても国王の公務なんて高々その程度のものなのかという失望感もないではない.
映画の良かった点を挙げると,舞台の作り込みとカメラの色彩がとても良かった.王室の豪華な一室から,街のいち聴覚師の庶民的な部屋の家具まで,細部へのこだわりが感じられる.その素材に歴史的な匂いを加える,くすんだカメラの色彩もとてもいいスパイスだ.現代の映像技術で20年位前の映画を撮ったような,ノスタルジーがあっていい.
俳優人の演技も素晴らしい.吃音症という難しい役柄を上手く演じた(日本語の吃音症とは少し違うイメージも感じたけれど)Colin Firthも勿論だけれど,厳かなイメージの強いGeoffrey Rush(個人的に「Les misérables(レ・ミゼラブル)」の印象が強い)の優しい表情の作り方がとても良かった.
最後に余談.主人公が吃音で話に失敗してしまうシーンや,その兄が弟の吃音症を嘲るシーンなどで,ケラケラと笑う観客が少なからずいたのだけれど,その感覚が理解出来ない.ウィットに富んだ笑いどころはほかに幾つもあったはずなのだけれど,デリケート且つシリアスなシーンでしか笑えない観客の浅さがショッキングだった.


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