2011/02/21

Die Fälscher (2007)

ヒトラーの贋札 [DVD]
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 「Die Fälscher(ヒトラーの贋札)」は,2007年公開のドイツ・オーストリア合作映画.アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品で,ナチスが主導した強制収容所のユダヤ人技師たちのポンド紙幣贋造作戦(通称ベルンハルト作戦)を題材にした映画.

 昨年,アウシュビッツ強制収容所を訪れて以来,しばらくホロコースト関係の映画を観たいとは思わなかった.というのは,自分自身がアウシュビッツで感じたことは,「ナチス=悪,ユダヤ人=被害者」という常識的な構図ではなかったからだ.勿論,ホロコーストの惨劇は実在しただろうし,ナチスの迫害政策は人として到底許せるものではないが,アウシュビッツの見せ方はどちらかといえば,歴史的に迫害され続けてきたユダヤ人達が自分たちの権利を必要以上に主張する政治的道具にしている印象が少なからず感じられた.戦争当時,ナチス党員の中にも善人はいただろうし,ユダヤ人の中にも犯罪者はいただろう.そういうミクロを完全に遮断して,善と悪との分かりやすい対立構造を必要以上に煽る歴史の語り方は,却って贔屓的な意味での人種差別を助長しているようにも見える.

 そんな折,先日,久し振りにMélanie Laurentが見たくて「Inglourious Basterds(イングロリアス・バスターズ)」を観直したら,どういうわけか物凄く面白かった.多分,一度観てグロテスクなシーンや過激な描写も先が見えているから,純粋に物語を堪能出来た,ということもあるのだけれど,それ以上に,善悪の対比で第二次大戦を描いていないところが印象的だった.

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 余談が長くなったけれども,この「Die Fälscher(ヒトラーの贋札)」も又,ホロコーストの隠れたリアルを描いている.ユダヤ人を被害者として必要以上に美化せず,ベルンハルト作戦の失敗を必ずしもユダヤ人達の功績として讃えない.主人公は正真正銘,犯罪者の腕利きの贋造師であり,技術者たちは技術ゆえに,収容所にあっても人並みの生活に恵まれたのだ.しかし,柔らかい布団も,温かい食事も,作戦の成功なくして続きはしない.生きる為に従うか,高潔の為に死ぬか.「今日の銃殺よりも明日のガス室の方が良い」と頑なに生を求め,宿敵ナチスに媚びを売ってでも自分と仲間を生かそうとする主人公Sorowitschと,確固たる信念と家族への愛ゆえにナチスの作戦に加わることを拒絶し,反旗を翻そうと画策するBurgerの,同じユダヤ人の間の対立構造こそがこの映画の見どころだ.

 物語は,Sorowitschの心境の変化と共に大きくクライマックスを迎えようとするが,その勢いは終戦の一方と共に行くあてもなく拡散していく.結果的に,Sorowitschの意志によって技師たちは生き,Burgerの意志によって技師たちはナチスを斃したのだが,その根底にあったのはユダヤ人の美談ではなく,ジレンマに揺れた人間模様でしかない.生にしがみ付くSorowitchの仲間たちへの愛に溢れるシーンや,Burgerの気高い理想によって仲間たちが死の直前まで晒されるシーンも,善とは何か,悪とは何かを改めて問い質す.

 善と悪とに絶対的な境界線などなく,時代や場所によってその答えは刻々と変わる.況してや,境界線そのものが無いかも知れない.という,ごくごく当たり前のことをホロコーストという極限的な惨劇の中で描き出したこの映画は,紛れもなくリアルであり,ホロコーストを題材にした映画の中でも数ある指折りの傑作だと思う.

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 最後に,二つばかりコメントを付け加えておく.一つは,この映画の贋造技師たちが美術の心得のある者たちで,KandinskyやらEgon Schieleやら当時の名だたる画家達の名前が物語の随所で散りばめられているのは隠れた楽しみの一つであるということ.もう一つ,「Inglourious Basterds(イングロリアス・バスターズ)」がバカ受けして,この映画がアカデミー賞を受賞しながら今一つパッとしない理由として,前者はコメディであり且つHitlerを虐殺するという“痛快”な結末があるからで,後者はBurgerの功績をあくまでユダヤ人の英雄伝として描き抜かなかったからではないかと思う.

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