伊吹有喜さんの『風待ちのひと』とは逆に,都会に生まれ,都会で結婚した主婦が,夫の(これもやっぱり心の)事情で遠い田舎へ移り住んだ物語.ストーリーや表現方法はまるで違うけれど,『風待ちのひと』と裏表で同じテーマが描かれているように思う.ただ,こちらの作品は都会の生活だけでなく,田舎の生活まで存分に皮肉的に書いているあたりが面白いけれど,都会生まれ,都会育ちの主人公ならば田舎の生活の魅力より欠点が先に目に飛び込んでくるのが自然なんだろうなと思う.“田舎生まれ”の宮下奈都さんが,田舎を賛美するではなくこのあたりをリアルに描いているのは流石.ただ,これまでの彼女の作品のような若々しさを期待して読むと,最後まで期待は満たされない一冊ではある(自分も中盤くらいまでかなり違和感を感じて読んでいた).読み終わってみると,宮下奈都さんという作家が,予想以上にしっかり地に足をつけた人だという意外な発見がある.
最初から最後まで,主婦視点での皮肉と説教が混じったような話が続く.「10年日記」と並行して,田舎での時間は着々と進んでいくけれど,その時間の中で彼女が見出していくものは,田舎の魅力ではなくて都会の虚構である.これまでの宮下作品の定番だった,「終盤にかけて自分の持つちからに気付いていく」という希望にあふれた展開ではなく,寧ろ最初がクライマックスでそこから着実に何かを失っていくような印象さえ受ける.それでも,夫や義父母,息子たちに対する思いや近所の人たちとの付き合い,元アイドルとの小さな浮気を通して,彼女が失っていったのは良いものばかりではないことに気付かされる.都会にありがちなうわべだけの人間関係や,嘘や自慢にまみれた情報からも遠ざかり,都会では絶対的に見えた息子の中学受験や友達選びさえ,それほど重要なものではないように見えて来た.
物語は最後の最後で,少しだけ希望を感じさせて終わる.長い時間をかけながらも,価値観をしっかり見直せる主人公が,慧眼なのか,単に田舎に染まっただけなのかを判別する材料には乏しいけれども,主人公の「気付き」の時間はまだこれから始まるのだと思う.



5 comments:
こんばんは。
いま読み終えて、ちょっとムカムカ・・。(笑)でした。
都会から田舎に嫁いだ私と重なる点はいくつかあったのですが、宮下さん自身はこの田舎から脱出?できた人なので、そのへんが大いに違うなぁ~と感じました。
NHKの連ドラにもなったこの地、若い頃よく泳ぎに行った海。(今は大変な時期だと思いますが。)京都人が良く好んで遊びに行く地だったのに・・。
伊吹さんとは対照的に、故郷の美しい風景がまったく書かれていない。残念でした。主人公も卑屈すぎ。
あ、とはいうものの・・宮下作品まだまだ続きますよ~。まとめて借りちゃいました。
P.S
以前コメントした分、また消えてますねぇ。。マクシミリアンの凱旋門とか・・。なんでかな。
そういやレンブラントも観ましたよ♪
お久し振りです.そちらは地震の影響はありませんでしたか?
宮下さんの作品の中で,この作品だけ異質なのでファンからの評価も高くないようです.癒される作品ではありませんが,リアリティはあって個人的には読みごたえはありました.
更新はサボり気味ですが,コメント等はほぼ毎日チェックしています.こちらでどなたかのコメントを消すことはしていないので(Yahoo!みたいな広告コメントがあれば別ですが),また同じようなことがあれば教えて下さい.
P.S.レンブラントもフェルメールも既に観ているので,あとで記事にします♪
おっ。今度は入ったかな? (時間差でもうひとつ挑戦。)
卓クンみたいな丁寧な美術館の企画展ブログ、アップされているかた、意外と少ないんですよ。商業用になるとどうしても「来て来て!」って感じが強いじゃないですか。絵を描いておられる人でも、日常すぎるのか、アップされるのは少ないんです。
素直な目で観て紹介されてるのでね。わかりやすいです。コメント、私がほとんどでごめんなさいね。他の人ひかないといいけど・・(笑)
お忙しいでしょうけど、長く続けてくださいね。
とんでもないです!まぁ,割と自分の思ったことをツラツラ書いている方だと思うので,良くも悪くも的外れなところはあると思いますが.
いえいえ,コメント嬉しいです.最近は友人とのやり取りがも,TwitterやSkypeはじめ,用途に応じてさまざまになって来ているので,更新もサボってマイペースになってます(笑).
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