2010/10/27

伊吹有喜『四十九日のレシピ』

四十九日のレシピ
四十九日のレシピ
posted with amazlet at 10.10.27
伊吹有喜
ポプラ社
売り上げランキング: 20216

 Amazonで「宮下奈都」と検索すると,どういう訳か候補にヒットするこの作品.Amazonの評価も高そうだったので,これまただいぶ前にジャケ買いしておきながら,つい先月まで読まずに放置していた一冊.丁度一ヶ月くらい前に読んでいた本がどうも自分には合わず,なかなかページが進まなくなってしまったので気晴らしに読み始めたら,夜更かしをして一夜で読み終えてしまった.翌日,仕事にまで支障をきたしてしまったというのはここだけの話.

 恐らく,宮下さんの作品を買っているユーザーの何人かがこの本を買っていて,それが商品リストにあがるからヒットするのだと思うけれど,宮下作品とは世界観や作風こそ違うものの,期待以上の一冊だった.これを書いている時点で伊吹さんの作品はもう一冊読み終えている(今のところ二冊しか出版されていない模様)けれど,伊吹有喜さんの小説にも,純粋さや優しさの中に伊吹流の強烈な個性が色濃く出ていて,一度ファンになったら止まらなくなりそうな,いい意味での中毒性がある.宮下奈都さんのあとに読んだのがあまりにも惜しい.

 作品は,とある家族のストーリー.再婚した妻に先立たれた夫とその娘の,家族愛や自身の葛藤が描かれる.亡くなった妻,義母の,教え子と名乗る女性が突然あらわれ,奇妙な付き合いを続けていく中でおぼろげだった妻,義母のくっきりとした輪郭が浮かび上がっていく.家庭での生き方を何一つ知らない夫,夫婦関係に問題を抱える娘.その妻,義母が残した「四十九日のレシピ」を頼りに生活をしてみることで,少しずつ答えが見えてくる.
 伊吹さんの作風のようだが,ストーリーの視点が夫と娘とで交互に変わっていくのが面白い.章ごと,段落ごとにバトンタッチする主観は,まるで二人の対話のようでもあり,しかし二人の思いがなかなか溶け合いきらないところを見ると,寧ろ先立った妻であり母である人を理由にお互いを探り合っているようでもある.

 言葉の選び方やモチーフが洗練されているというわけではないし,必ずしも純粋な話題ばかりを扱っているわけではないけれど,世にありふれている安っぽい恋愛小説や家族小説とは確実に一線を画した,暖かさがある.
 家族とは何か.幸せとは何か.自分は何のために生きていて,誰とどのようにつながっているのか.登場人物たちに感情移入していく中で,いつの間にか自問自答して,言葉には出来ないまでも読み終える頃にはおぼろげに答えが胸の中で出ている.宮下作品が一人ひとりの中に眠るオンリーワンを気づかせるものだとしたら,伊吹さんのこの小説は,一人ひとりにとってのアナザーワンの存在を気付かせる愛にあふれたものであるように思う.

4 comments:

yuka さんのコメント...

ああ。そういえばこの方の「風待ちのひと」、半年前に読みました。

三重県出身で、三重県南部ののんびりした風景の描写が、とても心地よかったです。
間近で想像できるだけに、三重⇔東京間のなんともいえない空気が・・。

うーん。私にとっては・・絶妙でした。

Lune さんのコメント...

 『風待ちのひと』も読みましたよ.こちらもとても良かったです.自分も,南紀は何度か訪れているのでよく分かります.自分としては,潮岬から那智あたりの雰囲気を連想しながら読んでました.

 また別途レビュー書きます.

yuka さんのコメント...

遅ればせながら、こちらも先日読み終えました。NHKの連ドラになりましたね。こちらの図書館では予約待ち状態です。2作目なのにすごい。。

日系ブラジル人の青年が出てくるあたり、作者は三重県人だなあ。って感じました。(舞台は愛知県ですが。)こちらの小学校では一時期運動会のプログラムはポルトガル語まで用意してあったくらいなんですよ。

作者はやさしい人ですね。2作ともそう感じさせるくらい温かい作品でしたね。

Lune さんのコメント...

 おお,なるほど,調べてみたら東海地方は日系ブラジル人の方が多いのですね!文化交流も少なからずあるようで,閉鎖的で独善的な日本人にはいい薬ですね.羨ましい.

 伊吹有喜さん,昨年出逢ってよかった作家の一人です.著作の数が少ないのが残念ですが,今後に期待ですね.どちらもいい作品でしたが,読み終えてみれば,『風待ちの人』の方がやや好きだったかなぁ.

 伊吹さんの作品がお好きなら,ぜひぜひ宮下奈都さんの作品も!伊吹さんは昨年のダントツ三強作家の一人ですが,三強の中でも宮下奈都さんがやっぱり頭二つくらい抜けてます.優しい世界観は通じるところがあると思います.

© Crescent Moon - Template by Blogger Sablonlari - Header image by Deviantart